第485話 考えることは一緒

 一哉と別れ、高崎高校の最寄り駅の構内に入った俺は、部活終わりの高崎の生徒や、仕事終わりのサラリーマンやOLの人たちの中から、綾奈を探していた。

 この時間は人が多いなぁ……身長の低い綾奈を見つけるのはちょっと時間がかかりそうかも。こういうときに、歩くランドマークの千佳さんがいたらすぐなのだが、千佳さんは今、健太郎といるからな。

 綾奈からメッセージが入ってないかを確認するため、スマホを見ると、ディスプレイには『未読のメッセージがあります』の文字。アプリを起動すると、本当に綾奈からメッセージが来ていて、一言【コンビニで待ってるね】というメッセージが届いていた。

「コンビニか……」

 俺はスマホをポケットにしまうとすぐにコンビニに移動した。


 コンビニに入ると、雑誌コーナーに綾奈がいた。ビニール袋を持っているので何かを買ったみたいだな。

 俺は綾奈に近づき声をかけた。

「ごめん綾奈。おまたせ」

「あ、真人! お疲れさま。全然待ってないから大丈夫だよ」

 俺が声をかけると、綾奈の表情がぱぁっと大輪の花が咲いたような笑みを見せてくれた。俺のお嫁さん……やっぱり世界一可愛い。

「綾奈もお疲れ様。じゃあ行こっか」

「うん!」

 俺たちは笑顔で手を繋ぎ、コンビニをあとにした。


「ところで綾奈。コンビニで何を買ったの?」

 再び構内に戻ると、綾奈の持っていたビニール袋の中身が気になったので聞いてみた。うっすらと見えるんだけど、缶ジュースかな?

「これはね……」

 そう言って綾奈はビニール袋の中に手を入れた。

 あ、そういえば綾奈にホットココアを買っていたんだった。忘れないうちに渡さないと。

 俺は自分のリュックの中に手を突っ込みココアを探す。

「?」

 俺が突然リュックを漁り始めた様子に、綾奈はちょっとだけ首を傾げている。そんな綾奈は、俺よりも先に買ったものを取り出した。

「はい真人。ホットココアだよ」

「え!?」

 綾奈が袋から取りだしたまさかの物に、俺は驚きを隠せなかった。

 こんなことあるか? 俺は部活で歌いまくった綾奈を労うため、喉に優しいココアを選んだんだけど、まさか綾奈もココアを……。

 それを見て、俺は嬉しくなり、自然と笑顔になっていた。

「どうしたの真人?」

「……いや、こんなことってあんるだなと思ってね。……ほら」

 俺はリュックからさっき買ったココアを取り出し、綾奈に見せた。

「えっ!? これって……」

 やはり綾奈も驚いてるな。そりゃそうか。だって綾奈がビニール袋から取り出したホットココアと、俺がリュックから取り出したホットココアは缶のデザインまで全く同じ物だったから。

 もちろん事前に伝えてなんかいないのだから、そりゃあ驚くよ。

「綾奈はココア好きだし、酷使した喉を潤してほしくて、電車に乗る前に買ってあったんだけど……」

「わ、私は寒い中ずっと外にいた真人に温かいものを飲んでほしかったから……」

 お互いがお互いを想って買ったのがこのココアで、それが嬉しくて、気がつくと俺たちは笑いあっていた。

「俺ら、息が合いすぎだろ」

「ねー。嬉しいなぁ」

「じゃあ……はい、綾奈。ココアどうぞ」

「ありがとう。真人もココアどうぞ」

 俺たちは笑顔のまま、互いのココアを受け取った。

 あれ? 綾奈の持っているビニール袋、まだ何か入ってるな。この形状からすると、もしかして……。

「綾奈、もしかしてだけど、自分のも買ってた?」

「う、うん……」

 綾奈は再びビニール袋に手を入れ、その中に入っていた同じココアを取り出した。

「ま、まさか真人が私のために買ってくれてたなんて思わなくて……」

「あはは、それは俺も同じだよ。ほら!」

 俺はズボンのポケットから、飲みかけのココアを取り出して綾奈に見せた。

「あ……」

「ね? だから綾奈からもらったこのココアは寝る前に大切に飲むことにするよ」

「私も。真人からもらったココアは寝る前に飲むことにするね。ありがとう真人」

「こちらこそありがとう綾奈」

 俺たちはまた笑いあった後、手を繋いで改札へと歩き出した。


 それからはさっき起こったいざこざと、千佳さんが部活を抜け出した理由を綾奈に話したのだが、やっぱり綾奈は健太郎と千佳さんのことを心配していた。

 俺も二人のことは今でも気がかりだけど、きっと悪い方向には行ってないと信じ、今日はお互い千佳さんと健太郎からは何も聞かないことにし、明日の朝、もしくは二人が喋ってくれるその時まで、こちらからは聞かずに待っていようという風に決め、綾奈を家まで送っていった。

 俺が泣いてしまったことは……言えなかったけどな。

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