第484話 心配は尽きない真人
「健太郎、大丈夫かな?」
健太郎と千佳さんと別れ、俺は一哉と一緒に駅までの道を歩いていた。
だけど、頭にあるのは健太郎と千佳さんのことばかりだ。もう最悪な事態にはならないとは思うけど、それでも何もないはずがないのはわかるので、健太郎への心配は尽きなかった。
「大丈夫だろ。あの二人なら」
俺の心配をよそに、一哉はあっけらかんと言い放った。こいつ、心配じゃないのか?
「お前は健太郎が心配じゃないのかよ?」
「心配はしていないよ。まあ多少は千佳さんに怒られるだろうが、俺はあの二人の絆がさらに強くなると思ってる」
それは俺も思う。千佳さんの性格上、何も言わずに解散ってのにはならないだろう。『多少』って一哉は言うが、多少ですめばいいけど……。
「ビンタとかされてなければいいけど……」
俺はこの時、綾奈が中村に放ったビンタを思い出してしまって、左頬が痛くなってしまった。
本気の千佳さんのビンタ……想像するだけでもこわいな。
「ビンタくらいですむならいいだろ。それよりも真人。お前、西蓮寺さんに連絡しなくていいのか?」
「あ、そうだな」
さっき千佳さんに、『綾奈と一緒に帰ってあげて』って言われたけど、当の綾奈はそれを知らないんだった。
今の時間は……六時か。ちょうど部活が終わったタイミングだろうから、電話をかけても大丈夫かな?
電話をかけると、綾奈はすぐに出てくれて、一緒に帰ろうと伝えると、めちゃくちゃ喜んでくれた。
でもやっぱり千佳さんのことが気になるみたいで、それについてもあとで話すと約束し、電話を切った。
「西蓮寺さん、なんだって?」
「俺と一緒に帰れるのがめっちゃ嬉しそうだったけど、やっぱり親友の千佳さんが心配みたいだった」
「まあそうだろうな。それはお前が説明できる範囲でしといてくれ」
「もちろんそのつもりだよ。というかお前、綾奈は名前で呼ばないのか?」
さっき千佳さんが一哉を名前で呼んでいたから、それに乗じて一哉も千佳さんを名前呼びに変えた。となると、俺たち六人組の中で、一哉が唯一名前で呼んでないのは綾奈だけになってしまった。
「逆にお前はいいのかよ?」
「なにがだ?」
「自分の嫁さんを俺が名前呼びにして」
「なんで彼女持ちの親友に嫉妬せにゃならんのだ……」
一哉は茜一筋ってわかりきっているし、仮にそうじゃなかったとしても、こいつは
「ま、お前がいいって言うなら、今度から名前呼びにさせてもらうよ」
「多分綾奈も嬉しいと思うからそうしてくれ」
そんな話をしているうちに駅へと到着したので、併設されているコンビニへ行き、俺は自分と綾奈、二人分の缶に入ったホットココアを購入し、改札をくぐり電車に乗った。
「それにしても、明日は健太郎には忘れられないバレンタインになるだろうな」
吊り革を掴み、電車に揺られていると、一哉がそんなことを言ってきた。
「そりゃ初めてのバレンタインだからな」
「それは俺たちだってそうさ。だけどバレンタイン前日にあんなことがあって、多分今頃、二人は仲直りをしてさらに絆を深めているだろうからな。そこからのバレンタインだ。俺たちよりも特別感があるものになると思うぜ」
「なるほど……」
あのいざこざを乗り越えた二人だ。今までも仲が良かったけど、さらに仲を深めることに繋がるだろうな。案外あの二人も、俺と綾奈みたいに『お嫁さん』、『旦那様』って言ってたりして……。
「というか、特別感なら一哉たちもだろ? お前たちが付き合って一年の記念日、バレンタインが終わってすぐなんだからさ」
一哉と茜は去年、俺たちの受験が終わってすぐに付き合いだした。確かバレンタインが終わって一週間も経ってなかったはずだ。
一哉と茜にとったら、バレンタインという恋人たちのビッグイベントのすぐあとに、自分たちのビッグイベントが控えているのだからな。
「まあ、な。一応プレゼントも用意してるしな」
お、プレゼントか。どんなものかは知らないが、茜はきっと喜んでくれるだろうな。
「俺の幼なじみを頼んだからな」
「なんで微妙に上からなんだよ……まあ、心配しなくても、茜はちゃんと幸せにするよ」
「おお! 結婚宣言だな! 言質取ったからな」
「……おう」
赤面している一哉を見るの珍しいな。でもまあ、親友が幸せそうで何よりだ。
「真人は明日はどうするんだよ?」
「明日?」
「さいれ……綾奈さんは明日も部活だろ? 放課後は一緒にいられるのか?」
「うん。駅で綾奈をお出迎えするように話してあるから、そこから一緒に帰るつもりだよ。実は綾奈のご両親に夕食にも誘われてるしな」
実は先週末に弘樹さんから電話があって、その時に誘われたのだ。
もちろん俺はその場で快諾。だから明日はいつもの平日より綾奈と一緒にいられる時間が長いのだ。
「相変わらず綾奈さんの家族に好かれまくってるな」
「嬉しい限りだよ。本当に……」
そうして一哉と明日の予定を話し合っていると、高崎高校の最寄り駅に到着した。
一度降りて綾奈と合流するので、俺はここで一哉と別れた。
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