第482話 清水健太郎と宮原千佳②(前編)
真人と一哉が空き地から出て行ってから少しだけ時間が経過したが、千佳と健太郎はまだ空き地内にいた。
お互いに何か話すわけでもなく、ただ沈黙が……気まずい沈黙が流れていた。
健太郎は千佳と目を合わすことが出来ずにずっと下を向いていて、そんな健太郎を、千佳はムスッとした表情で見ていた。
そしていよいよこの沈黙に耐えきれなくなった健太郎が口を開いた。
「あ、あの……千佳?」
「……なに?」
「……怒ってる、よね?」
「…………」
千佳からの返答はない。ただじっと、自分の彼氏をムスッとした表情で見続けている。
「……ごめん、なさい」
これ以上会話が続かず、かといって何かを言わなければと思った健太郎は、学年一位の頭脳をフル稼働させて、ようやく絞り出したのが謝罪の言葉だった。
「……それは何に対しての謝罪なの?」
「え?」
「何に対しての謝罪なのかって聞いてんの」
健太郎は逡巡する。一体どれが正解なのかを頭の中で必死に探す。
(いろいろあるかもしれないけど、でもやっぱり一番は……)
今の健太郎にとって、どのような感情が大半を占めているのか、何に対して千佳に謝りたかったのかを考えた結果、あるひとつの答えに辿り着いた。
その答えが、千佳をさらに不機嫌にすることも知らずに……。
「千佳に、迷惑をかけてしまったから……」
「……迷惑?」
「だってそうでしょ? 終わったと思っていた……もう会うこともないと思っていた中学の同級生と会って、この騒動で、千佳にも、真人にも一哉にも迷惑をかけてしまった。本当は僕一人でカタをつけなければいけなかったのに、彼らを前にすると、やっぱり怖くなって、結局僕はほとんど何も言えなくて、みんなに迷惑をかけてしまった……」
「……」
「千佳は部活だったのに、それなのにここに来させてしまった。僕のせいで松木先生に怒られてしまうんだから……本当にごめんなさ───」
健太郎は謝罪の言葉を最後まで言うことが出来なかった。
なぜなら、千佳が健太郎の頬を思い切り引っぱたいたからだ。
以前、高崎高校の文化祭で、真人が茜を抱きしめている場面だけを見てしまい、自暴自棄に陥って、真人の言葉を聞かずに自分で『真人と香織(この時の綾奈は茜を香織と誤認していた)が付き合っている』と結論付けようとしていた時があり、綾奈はその時、今の健太郎のように千佳に思い切り頬を引っぱたかれた。
言っても聞いてくれないなら引っぱたいてでも話を聞かせる。かなり強引なやり方だが、その効果はてきめんで、突然引っぱたかれた相手は、思考の全てを
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