第481話 多くの不在着信
「うわ! みんなからすごい着信が……」
俺たちは千佳さんのスマホの画面を見る。ロック画面は健太郎とのツーショットだ。
「不在着信が五十件以上……」
「これ、ヤバいやつなんじゃないか?」
どうみてもヤバいやつでしょうね。
「綾奈にも言ってないんじゃ、めちゃくちゃ心配してるだろうね」
「麻里奈さんに素直に謝るしかないか……」
覚悟を決めたのか諦めたのか……千佳さんはいろんな感情がごちゃまぜになっている。
「ごめん。俺が知らせたばかりに……」
「いや、むしろ真人には感謝してるよ。この場に立ち会えなければ、あたしはきっと後悔してたから。だからありがとう真人」
「千佳さん。でも……」
麻里姉ぇは普段は優しいけど、部活になったらめちゃくちゃ厳しい。だから説教コースは免れない。
俺が麻里姉ぇに事情を話して、大目に見てもらうか!?
「言っとくけど真人。麻里奈さんにはあたしからちゃんと言うから、あんたは言わないでよ」
「え!? だけど……」
どうやら俺の考えはお見通しのようだ。顔に出てたのかな?
「あんたがこのことで罪悪感を感じてるなら、今日はあたしの代わりに綾奈を家まで送ってあげてよ。そろそろ部活も終わるだろうからさ」
スマホで時刻を確認すると、もうすぐ六時になるところだ。
確かにもうすぐ高崎高校合唱部の部活は終わるし、今から駅に向かえばちょうど綾奈と合流出来るかもしれない。
「……そんなことでいいの?」
それは俺がいつもやってることだし、綾奈と一緒に帰れるのなら、俺にとってはご褒美でしかない。千佳さんと一緒に麻里姉ぇに怒られる覚悟も出来ていたからちょっと肩透かしをくらった感覚だ。
「あんたは綾奈のカレシで、旦那で、ボディーガードだ。綾奈を守れるのはあんたしかいないんだからさ。あたしのことは気にしなくていいから、綾奈のところに行ってあげなよ」
「え? 千佳さんは?」
千佳さんは俺と一哉と最寄り駅は一緒だ。それなら三人で行って綾奈と合流してもいいだろうに……。
「あたしは健太郎と話があるからさ」
「……わかったよ」
これ以上何かを言うのも詮索するのも野暮と思った俺は、黙って千佳さんに従うことにした。
「じゃあ健太郎、千佳さん。また明日ね」
「二人ともまたな」
「うん。二人ともまた明日。本当にありがとう」
二人に挨拶をし、俺と一哉は二人に背を向け、空き地の入口へ向かい歩いていた。すると───
「真人! や……一哉!」
千佳さんが俺たちを大声で呼び、俺たちは千佳さんたちの方を向いた。
というか、一哉を名前で呼んだの、初めてじゃないか?
「あんたたちが、健太郎の親友で本当によかった! 今日はマジでありがとう!」
「「……」」
俺たちは驚いて、お互い顔を見たままぽかんとしていた。
だけどそれも一瞬で、俺たちは笑って頷きあい、そして健太郎たちの方を向いた。
「気にしないでよ! 友達だろ?」
「そうだぜ! 友達なんだから助けるのは当たり前だろ? だから当然のことをしたまでだよ千佳さん!」
俺たちはそう言って大きく手を振り、また空き地の入口に向かって歩きだした。
もうすっかり暗くなっていて、千佳さんと健太郎の表情はわからなかったけど、きっとめちゃくちゃいい笑顔だと、そう思うことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます