第477話 真人が考えてしまった最悪の未来

 息を整えながら、千佳さんはゆっくりとこちらに近づいてきている。綾奈がいないから、ここには一人で来たみたいだ。

「な、なんだよあのギャル……?」

「さっき清水を名前で呼んでたよな?」

 相手の三人組は突然のギャルの登場で驚き慌てている。

 もっとも、驚いているのは健太郎と一哉もだし、一番驚いているのは間違いなく健太郎だろう。

「な、なんで千佳がここに……も、もしかして真人っ……!?」

 健太郎は千佳さんから俺へと顔を向けた。それはもうものすごい速さで。

「……」

 俺はなにも答えずにただ首肯だけした。

 千佳さんに連絡をしようとして、健太郎に止められた時から、俺は二人のことばかり考えていた。

 健太郎の言い分ももちろんわかる。過去の因縁に自分の大事な彼女を巻き込みたくない気持ち、考えなしに人の心を遊び半分で傷つける奴らに、自分の大切な彼女を見せたくない気持ち……。

 でも、千佳さんがもし今日のこのことをあとから知ったら、千佳さんはどう思うだろうかと考えてしまったら、俺にはやっぱり千佳さんに連絡しないという選択は出来なかった。だって、もしも───

「ど、どうして真人? 千佳には連絡しないでって言ったのに……」

「ごめん健太郎……。でも俺には、無理だった」

「これは僕が……僕一人でカタをつけなければならないものなのに、千佳を巻き込まな───」

「嫌だったんだよ!」

 俺は健太郎の言葉を途中で遮り叫んだ。

 もしも、もしも俺の考えたが来てしまったら、俺はこの先、どれだけ時が過ぎようとも、今日この日のことは絶対に後悔し続ける。もしもマンガやラノベみたいにタイムリープが出来るのなら、この日に戻りたいと強く願うほどに……。

「い、嫌って……なにが?」

「もし千佳さんがここに来なくて何も知らないままで、でももしある時今日ことを知ってしまったら、千佳さんはきっと健太郎を問い詰めるだろうし、その場にいて健太郎を支えてやれなかった自分に強い怒りを覚えてしまうはずだ……。もしかしたらそれが原因で二人が言い合いになって、仲がこじれてしまって、最悪……別れてしまうんじゃないかって思うと、怖くなったんだよ」

 そんな最悪な未来は絶対に誰も望まない。二人がいかにお互いを想いあってるかはみんなが知ってるから。

「か、考えすぎだよ真人。心配しなくてもそんな未来は来ないから」

「大袈裟に考えすぎだってことは俺だってわかってる! でも嫌なんだよ! こんな奴らのことで、大切な親友と、俺と綾奈を繋いでくれた恩人の千佳さんとの関係が、別れなくともギクシャクしてしまうことが……。だから、うぅ……っ、たとえ自分勝手と言われても、こうしないとってことしか、頭になかった」

 俺は途中から視界が歪み、目から涙が流れていた。

 これだけ好きあっている二人なんだ……こんな連中の起こした胸糞悪い過去が原因で万が一にも別れてしまったら二人は絶対に後悔するし、俺たちもどこか遠慮して二人と接してしまう。

 そんなのは絶対に嫌だ! 俺はみんなと、大人になっても変わらずに気兼ねなく話し合える関係を続けていきたいんだ。

 たとえ大袈裟だと言われようとも、そんな未来に繋がる可能性がある芽は、残らず摘み取ってやるんだ。

 未だに視界が滲んでいる俺の肩に、誰かが優しく手を置いた。

「ありがとう真人。大丈夫。あんたが想像した未来は来ないから。あとはあたしに任せときなよ」

「ちか、さん……」

 千佳さんに優しくそう言われて、安堵したのかはわからないが、俺の目から涙がさらに溢れてきた。

 そして千佳さんは前に出て、三人組と対峙した。


(真人。あたしの親友と彼氏のそばにいてくれたのがあんたでよかったと……今日ほど思ったことはないよ。マジでありがとう)

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