第473話 ラノベみたい?

「『俺のことを嫌っていると思っていた学校一の美少女が、俺のことが好きと親友に相談しているのを偶然耳にしてしまった件』? マジでこんな展開があんのかよ……ラノベってすげーな」

 明星書店に到着し、俺たちはまっすぐラノベ売り場に行き、珍しく非オタの一哉も俺たちと一緒に来て、一冊のラノベのタイトルを口頭で読んで驚いていた。

「てか、女子の登場人物、マジで美少女しかいないな」

 そのラノベを手に取り、口絵を見ながら呟いている。

「ラノベ……というかマンガもだいたいそんなもんだろ」

「でもそのタイトル、ちょっと真人と西蓮寺さんみたいだよね」

「え? 俺と綾奈?」

「うん。西蓮寺さんは確か中学の時、学校一の美少女って呼ばれていたんだよね?」

「うん……あ!」

 俺はあの文化祭の日、綾奈に告白された時のことを思い出した。

「どうした真人?」

「そういえば綾奈も、俺を好きになる前は俺にあまりいい印象を持ってなかったって言ってた」

「そうなの? なんか意外だね」

「遅刻しそうになったり、成績も悪かったからな」

 あの頃はマジで勉強が嫌いだった。いや、今も好きってわけではないが、ちゃんと取り組もうと思っているからこそ成績も上がったわけだし、長期休暇の宿題も溜め込むことはなくなった。

「……偶然の出会いからの一目惚れってのも、なかなかにラノベっぽいけどな」

「それを言うなら一哉だって出会いは偶然だったんでしょ?」

「……確かにな」

 俺と一緒に受験の合間の息抜きでショッピングモールに遊びに行ったときに、茜と出会ったもんな。いくら意気投合したとはいえ、親友の幼なじみと付き合うとは当時のこいつも思わなかっただろう。

「まあまあいいじゃん。俺たちはみんな意中の人と付き合えたんだし、今が幸せなんだからさ」

「一番幸せなお前が言うと重みが違うな」

「だね」

「否定は……しないけどさ」

「てかさせないけどな」

「あはは」

 ああ……やっぱりいいな。こうやって親友の二人と一緒に寄り道して何気ない会話をするのって。綾奈といる時が一番幸せなのはもちろんだけど、こいつらと一緒なのも本当に楽しい。

 そうして笑いあった後、俺と健太郎は数冊のラノベを、そしてまさかの一哉もさっきタイトルを口にしていたラノベを購入した。ようこそラノベ沼の入口へ。

 それから店を出た直後、俺たちは他校の男子生徒三人組と鉢合わせ、危うくぶつかりそうになった。

 相手の三人組は、前方もよく見てなかったし、声量もデカくあまり真面目そうな印象は受けなかった。

 俺たちも少し前方不注意だったし、ここは謝って早く退散しよう。

「ごめんなさい」

「いや、こっちこそ……ん?」

 相手も謝罪しようとしたのだが、なにかに気づいた様子で謝罪の言葉を途中で止めてしまった。

 他の二人も同じ所を見ている。そっちには俺のすぐ後ろに健太郎がいたはずだが……。

「……」

「健太郎?」

 その健太郎を見ると、明らかに顔を逸らしていて、まるで見たくないものを見てしまったような、そんな表情をしていた。

「やっぱり。お前、清水健太郎か」

 こいつら、健太郎を知っている? ということは、こいつらと健太郎は同じ中学の出身か?

 でも健太郎の雰囲気からして、とても友達には見えない。

「なっ!?」

 再び正面の奴らを見ると、そいつらは片方の口を吊り上げて、意地の悪そうな笑みを浮かべて、そしてこう言った。


「お前、まだ生きてたんだなぁ……」

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