第471話 それぞれの愛の重さ
それからも作業は進み、みんなそれぞれ用意した型にチョコレートを流し込み、冷蔵庫で冷やしているあいだ、椅子に座っておしゃべりをしていた。今はお姉ちゃんがキッチンで作業をしている。
私が真人用の本命チョコのハート形をした型にチョコを流し込んでいると、ちぃちゃんと茜さんは驚いていたけど、どうしたのかな?
「てか綾奈。あんたその真人にあげるやつ、大きくない?」
「え? そうかな?」
「そうだよ綾奈ちゃん! カズくんや健太郎君たちにあげるチョコは一口サイズなのに、真人のだけはとても一口では入らないサイズだったじゃん!」
私は今年、真人以外には山根君と清水君、お義兄さんと拓斗さんにあげるチョコを作ったんだけど、型は普通の丸い物にしていた。
言われてみれば、確かにちょっと大きかったかもしれない。冷蔵庫の場所をすごく取っちゃったかも……。
「えっと……真人を想いながら型を選んでたら、自然とあの大きさになったと言いますか……」
真人が私のチョコを美味しそうに食べてくれる場面を想像しながら選んでて、愛しさが溢れちゃってあの大きさの型を買っちゃったんだった。
「あんたは本当に……日ごとに愛が大きく、重くなってるねぇ」
「じ、自覚はあるけど、でも真人は一言も重いなんて言わないもん。それにちぃちゃんだって清水君への想いは付き合いたての頃より大きくなってるでしょ?」
ちぃちゃん、清水君といると私のことをとやかく言えないくらい恋する乙女の顔になってるもん。絶対私が真人を想ってるのと同じくらい清水君が好きなんだよ。
「いや、まぁ、そうなんだけどさ……」
ちぃちゃんの声がどんどんしぼんでいって、頬もすごく赤くなってる。この手の話を返されると弱いのは知ってるもん。それにしても普段とのギャップがすごい。
「千佳ちゃんの彼氏の清水君……確かにかっこよくて千佳ちゃんのこと、大好きって感じだったのもね」
「あ、明奈さんまで……」
確かに清水君は顔は整ってるし物腰も柔らかくてとても話しやすい。ちぃちゃんへの想いはとても一途だ。確か一目惚れって言ってたっけ。
「茜ちゃんの彼氏の山根君はどんな子なの?」
あ、お母さんが今度は茜さんに話を振った。
「カズくんですか?」
「ええ。真人君の親友ってことしか知らないから」
「そうですね……たまに口が悪い時はありますが、それでも私や友達を本当に大切にしてくれる、とっても優しい人ですね」
山根君は真人の一番の親友で、小学校中学年からは大体二人でいることが多かった。たまに真人と言い合ったりしてるけど、それでもさっき茜さんが言ったように友達を大切に思う気持ちは真人と同じくらい強い。
清水君と山根君……二人とお友達になれて本当に良かったと思ってる。
「二人はそれぞれの彼氏とずっと一緒にいたいって思ってるの?」
「私は思ってますよ!」
「そう……ですね。あたしも、健太郎とはずっと一緒にいたい、です」
茜さんは即答。ちぃちゃんは照れながらも清水君と一緒にいたいことをはっきりと言った。
「ふふ。あなたたちも綾奈や麻里奈と同じね」
「え?」
「ちょっと母さん!?」
お姉ちゃんがいきなり話を振られ、チョコをヘラでかき混ぜながら溶かしていた手が止まった。
「いやさすがに綾奈よりかは……」
「それに松木先生は結婚されてますし」
「二人は彼氏に『ずっと一緒にいたい』と伝えたことはあるのかしら?」
ちぃちゃんたちの反論ともとれるツッコミをスルーし、お母さんは続ける。
「私は伝えてますよ」
「あたしもまぁ、それとなくは……」
「それで、二人はなんて言ったの?」
「カズくんは『俺も』って言ってくれました」
「健太郎も同じですね」
茜さんは山根君と普段から仲良しだし、清水君はちぃちゃんに一目惚れだったからそんな感情を抱くのも必然な気がする。
「愛を重いと感じるのは千差万別よ。中にはちょっとの束縛でも重いって言う人だっている。でも、真人君も清水君も山根君も、あなたたちと同じ気持ちを持ってくれている。うちの綾奈の真人君に対する愛は、二人を全く知らない人から見たら確かにすごく重いものに感じると思うわ。でも真人君は綾奈の愛を正面から受け止めてくれた。つまりそれは、真人君も綾奈が想うのと同じくらい綾奈が好きということ。それはあなたたちにも言えることじゃない?」
言われてみれば、真人は私の愛を重いなんて言ったことがない。それどころか、私と同じくらいの愛情を私に注いでくれている。
ちぃちゃんと茜さんが、普段どんな風に清水君と山根君と恋人のスキンシップをしているのかはわからないけど、変わらずにすごく仲良しのカップルだ。
「言われてみれば、そうですね」
「あたしも……うん。そうだと思います」
「言ってしまえばそれは『好きの度合い』が双方にとってベストマッチってことよ。そんな出会いなんて滅多にないのだから、大切にしないとね」
「「「はい!」」」
真人が私にくれる愛情が普通なんて思わないようにしよう。本当に結婚しても、ずっとずっと、大好きな人が自分に向けるのと同じくらい愛されていることが素晴らしくて特別なことなんだなってこと、忘れないようにしないとね。
「ところで麻里奈さんもやっぱり……」
「麻里奈も翔太君への愛情は付き合ってる当時からすごいものだったわよ」
「ちょっと母さん! 恥ずかしいから……」
「やっぱり綾奈ちゃんのお姉さんですね」
茜さんの言葉に妙に納得する自分がいた。
お姉ちゃん、はじめてお義兄さんを家に連れてきた時、本当にお義兄さんが好きって気持ちが溢れてたもんね。
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