第470話 話題の中心は真人
「ところで茜ちゃん」
ちぃちゃんと茜さんが切り刻んだチョコをボウルに移し、それを湯せんしていると、お母さんが茜さんに声をかけた。
私は一度キッチンから離れてテーブルの椅子に座っていた。
「なんですか明奈さん?」
「茜ちゃんは真人君の幼なじみなのよね?」
「はい」
「真人君って小さい頃はどんな子だったの?」
真人の小さい頃……私は先月、杏子さんと一緒に茜さんの家に行って、当時の真人の写真を見せてもらったから知っている。
お母さんが茜さんにそんな質問をするから、自然と子供の頃の真人が私の脳内に現れた。まさと~。こっちにおいで~♡
「私も気になるわ。東雲さん。よかったら教えてくれないかしら?」
どうやらお姉ちゃんも興味があるみたい。あれだけ真人を『義弟』って呼んでるもんね。
「そうですね。一言で言うなら、めっちゃ泣き虫でした」
茜さんの一言で、私の脳内にいる小さい真人も泣き出してしまった。大丈夫。怖くないよ。
「あらそうなの?」
「はい。ちょっとしたことですぐ泣いてましたからね」
「昔の真人ってそんなに泣き虫だったっけ?」
ちぃちゃんが小学生の頃の記憶をなんとか思い出そうとしているけど、その頃は『同級生の男の子』のイメージしかなかったから、泣いてる場面なんて覚えてないんじゃないかな?
「でも、そんな真人君がそばにいたら、きっと庇護欲をかきたてられそうだわ」
「先月、私の家で当時の真人の写真を見た綾奈ちゃんがまさにそれでしたね。キョーちゃん……杏子ちゃんが真人を泣かせている写真を見て、普通にキョーちゃんに怒ってましたからね」
た、確かにあの時は泣いてる真人が可哀想で、私が守ってあげられたらって思っちゃって、杏子さんにちょっとだけ怒っちゃったんだよ……。
「あらそうなの? 綾奈、杏子ちゃんに怒っちゃったの?」
「だ、だって……イタズラされて泣いてる真人を見たらつい……」
「……私もちょっと見たくなっちゃったわ」
「お姉ちゃん!?」
まさかお姉ちゃんまで見たいと言いだすなんて……。本当に真人のこと、気に入ってるんだ。
「あ、なら今度持ってきましょうか?」
「お願いするわ東雲さん」
「でも、勝手に見せてもいいのかな?」
私は初詣の時に見せてもらうのを茜さんに約束してもらったし、その場には真人もいたからよかったけど、お姉ちゃんも一言真人に言ったほうがいいと思うな。
「真人が渋ったら代わりに綾奈の小さい頃の写真を見せてあげることにするわ」
「な、なんで私なの!?」
この流れなら普通お姉ちゃんの写真を見せるんじゃないの?
「あら、綾奈は見たのに真人は見れないなんてフェアじゃないでしょ?」
「そ、そうかもだし、真人にお願いされたら見せるけど、今の流れ的にお姉ちゃんの写真を見せるんじゃないの?」
「もちろん真人が見たいって言ったら見せるわよ」
お姉ちゃん、即答しちゃった。そもそもお姉ちゃんの昔の写真もかわいいのしかないからなぁ。私のは……どうだったかな? 変な写真はなかったと思うんだけど。
「というか、チョコを作り出してから真人の話しかしてなくない!?」
「あれ? そうだっけ?」
「言われてみれば……」
少しだけ記憶を遡ってみるけど、真人の話以外にもしてると思うんだけど。
「でもチョコの話もしてるよね?」
「そりゃあチョコを作ってるからね。いや、チョコ以外ではマジで真人の話題しか出てないじゃん」
「千佳ちゃん千佳ちゃん」
茜さんがちぃちゃんの服の袖をクイクイと引っ張ってるけど、湯せんは大丈夫なのかな?
「なに? 茜センパイ」
「私たちがおじゃましてる場所を考えたら納得するしかないよ」
「場所? ……ああ」
「ね?」
茜さんの言っていることがわからず、きょとんとしていたちぃちゃんが私とお姉ちゃんとお母さんを見て、茜さんの言葉を理解したのか、少しだけ目を細めた。
「確かに。ここの皆さんは全員真人が大好きだったわ」
「そういうこと」
納得してるというか、ちょっと呆れてるというか、とにかくちぃちゃんはそんな表情をしていた。
私は真人の話、もっとしたいけどなぁ……。
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