第469話 綾奈たちのチョコ作り

 日曜日のお昼すぎ、私は家で手作りチョコを作るために、材料と道具を準備していた。私一人ではなく、ちぃちゃんと茜さんも一緒に。

「綾奈が真人と付き合ってからはこの家に入ってなかったからすごく久しぶりだわ」

「私ははじめてお邪魔したけど、広くて綺麗な家だよね」

 ちぃちゃんが最後に家に入ったのはいつだっけ? 夏休み以来? 真人に私のボディーガードをお願いするのにあたって、細かい作戦をきめるのと、あと夏休みの宿題を一緒にしたのが最後だった気がする。

「それにしても、はじめてここに来たのにキッチンを使わせていただきありがとうございます明奈さん、弘樹さん」

 私の両親も今はリビングにいる。お母さんは私たちと一緒に道具を用意してくれていて、お父さんはテレビを見ていた。

「そんなこと全然気にしなくていいのよ茜ちゃん」

「そうだよ。うちの綾奈と、それから真人君と仲良くしてくれてるんだから、そんな遠慮は不要だよ」

「……カズくんも言ってたけど、真人ってマジで綾奈ちゃんのご両親に好かれすぎじゃない?」

「ホントにね。普通だったら高校生で……付き合って数ヶ月で結婚を許してくれないって」

「それだけ真人が真面目でうちの両親もそれで認めてくれたんだよ」

 真人は本当に私を大事に想ってくれている。それをお父さんもお母さんもわかっているからこそ、真人との婚約を認めてくれている。そんな両親には感謝しかないよ。

「……ねえ茜センパイ。今からチョコを作るのに、既に甘ったるく感じるのはあたしだけ?」

「私も同じだから大丈夫だよ千佳ちゃん」

「?」

 甘ったるいかな?

 そんな話をしているうちに準備が出来たので、私は指輪を外してそれをペンダントに通し、髪を真人からもらったシュシュで結い、手を洗ってからいよいよチョコレート作りがスタートした。

 お父さんは自分がここにいたら邪魔になるからと、二階に上がってしまった……。

 まずは昨日買ってきた市販の板チョコを包丁で細かく刻んでいく。

 私は普段から料理をしているから包丁を使うのも慣れっこだけど、ちぃちゃんと茜さんは少々悪戦苦闘していた。

 包丁を使いながらおしゃべりをすると、もしかしたら指を切ってしまう危険があったから、切り終えるまでは無言で作業をしていた。

「ただいまー」

 チョコレートを切っている途中で、お姉ちゃんが帰ってきた。

「あら麻里奈。おかえりなさい」

「おかえりなさいお姉ちゃん。お店は大丈夫なの?」

「こんにちは麻里奈さん」

「お邪魔してます松木先生」

 ちぃちゃんと茜さんも手を止めてお姉ちゃんに挨拶をした。

 今日は日曜日。ドゥー・ボヌールもお客さんがいっぱい来てるはず。日曜日はいつも店のお手伝いをしているお姉ちゃんが帰ってくるのは珍しい。

「千佳と東雲さんも来てたのね。いらっしゃい。ええ、お客さんの波がちょっとだけ落ち着いてきたから、私もチョコを作ろうと思って帰ってきたのよ」

「なるほど」

 自宅で作ってると、もしかしたらお義兄さんがお店から上がってきちゃうかもしれないから、だからお姉ちゃんはここで作ることにしたんだね。作ってるのを渡す本人にはあまり見られたくないし、ましてやお義兄さんはプロだもんね。

 だけど、キッチンは私たちが作業しているからお姉ちゃんが入るスペースはない。私はもうすぐ切り終わるからお姉ちゃんに場所を譲ろうかな。

「もう少しで切り終わるから待っててねお姉ちゃん」

「慌てなくても大丈夫よ。あなたたちが終わったあとで作るから。だから焦らずにいいものを作って」

「わかったよ。ありがとうお姉ちゃん」

「「ありがとうございます」」

 お姉ちゃんに感謝しつつ、私たちはしっかりとチョコを細かく切っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る