第466話 真人の目標
綾奈と手をつなぎながらアーケードを抜け、俺たちは綾奈の家に向けてゆっくりと歩いていた。
「真人、とっても嬉しそう。何かいいことがあったの?」
綾奈が言うように、俺は自分でもわかるくらい、嬉しくて頬がつり上がっていた。テンションも上がっている。
……はたから見たら俺のにやけ顔なんて気持ち悪いしかないのだが、どうにも表情のコントロールが出来ない。
「そりゃあ、愛するお嫁さんに会えたからね」
「私も真人に会えてとっても嬉しいよ」
「綾奈……」
まったく……嬉しいことを言ってくれる。荷物を持っていなければ綾奈の頭を撫でているところだ。
「でも、真人はそれだけじゃないような気がする」
「え?」
「真人のそんなにこにこした顔、あまり見ないもん。他にも嬉しいこと、あるんでしょ?」
確かに綾奈に会えたからだけではない。ちょっとにやにやしすぎたかな。
「正解。よくわかったね」
「えへへ。だって私は真人のお嫁さんだもん。それで、真人がそんなに嬉しくなってるもうひとつの理由って?」
「うん……」
俺は一度空を見上げる。空は少し夜の闇に染まりつつあった。真っ暗になる前には綾奈を家までま送り届けられるはずだ。
「今日、スーパーで麻子さんに『綾奈ちゃんは一緒じゃないの?』って言われたんだけどさ……」
「私もゲームセンターで店長さんと横水君に言われたよ」
さっき杏子姉ぇが言ってたな。
「うん。それで周りのみんなに、俺たちはちゃんと二人で一つ……夫婦として周知されてるんだと思ったら、なんだか嬉しくなってね」
「あ……」
一哉や千佳さんといった、いつも学校で会うヤツらや、美奈や杏子姉ぇのような家族に知られてるのはもう当たり前だけど、麻子さんや凛乃ちゃんのような出会ってまだ一ヶ月ほどの人たちにまで、俺と綾奈は夫婦として扱われて、一緒にいない時はそんな風に当たり前のように聞かれるのが俺は嬉しかった。
「だからさっきからずっとニヤけてるんだ。綾奈と夫婦として見られるのがめっちゃ嬉しくてね」
「……私も、そう考えたらすごく嬉しくなっちゃった。真人と夫婦として見られてるのって、改めて思うとこんなにも幸せなことなんだね」
綾奈はゆっくりと、自分の腕を俺の腕にくっつけてきた。密着度が上がり、同時に俺の心拍数も上がる。
「でも綾奈。俺はまだ上の目標があるんだけど、聞いてくれる?」
「もちろん。なに?」
この目標は、実はさっき思いついたことなんだけど、綾奈と一緒ならきっと達成出来る。
「これから先、長い人生で俺たちは色んな人と出会うと思う。そんな人たち全員に、俺たちが一番のおしどり夫婦だって思ってもらうこと。途方もないと思うけどね」
なんたって出会って知り合いになった人全員なんだからな。場合によっては達成できないかもしれない目標だ。
決してイチャイチャを見せようとしてるわけではなく、俺たちの仲の良さを見てもらって、そう思ってもらうんだ。
「私は真人にどこまでもついていくから。その目標も、私の目標だよ」
「ありがとう綾奈」
「これからもずーっと仲良しでいようね」
「ああ、もちろんだ」
俺たちは一瞬だけキスをして、そして笑いあった。
これからも綾奈と一緒なら、俺はずっと笑顔でいられる。だから俺も、綾奈の笑顔を絶やさないように頑張っていかないとな。
「ところで話は変わるんだけどさ、美奈のやつ、一体誰にチョコを渡すんだろうな?」
「え……?」
手作りチョコを渡すんだ……きっと本命がいるはずなんだ。だけど修斗じゃないってことは、美奈には修斗以上に仲のいい異性がいるということになる。めちゃくちゃ気になるってわけじゃないけど、なんかこうモヤっとする。
妹の恋愛事情に口を挟むつもりはないけど、できるならいい人とお付き合いをしてほしい。
「……真人。やっぱり鈍感」
「え?」
気のせいかな? 綾奈から『鈍感』って聞こえたような……。
「心配しなくてもすぐにわかると思うよ。真人が心配するようなことはないと思うから安心して大丈夫だよ」
「綾奈は美奈が誰にチョコあげるのか知ってるの?」
「知ってる……というか、大体わかるけど秘密だよ。美奈ちゃんも言ってほしくないと思うから」
まあ、そうだよな。
美奈から打ち明けてくれるまで待つか。
それからも俺は綾奈と楽しくおしゃべりをしながら歩き、綾奈を無事に家に送り届けて、俺も帰宅した。
「お兄ちゃん私の買ったチョコは?」
「あ……」
そういえば美奈が買った物は綾奈が持っていることをすっかり忘れていた俺は、綾奈が買った物を持ったまま帰ってきてしまった。
スマホを見たら数分前に綾奈から着信があったのに気づかなかった……。
俺は綾奈に連絡をし、再度綾奈の家に向かい、その途中のT字路で綾奈と再度合流し、お互いの袋を交換し、また綾奈を送るために西蓮寺家へと向かうのであった。
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