第465話 合流、真人と綾奈

 綾奈が俺のそばまで走ってきたので、俺は読んでいた声優さんの雑誌を元の棚へ戻して身体ごと綾奈の方に向けた。

「綾奈。杏子姉ぇとゲーセンで遊んでたんじゃ……」

「実はさっきスーパーに行っててね。麻子さんと凛乃ちゃんに、少し前に真人が美奈ちゃんと一緒に来てたって聞いたから、来ちゃった」

「そう、だったんだ」

 俺は綾奈が持っている、スーパーで買った商品が入っているレジ袋を持った。おっと、美奈が買ったやつも忘れずに持たないとな。

「あ、ありがとう真人」

「これくらいはね。それにしても、この中に入ってるのはもしかして……」

「バレンタインチョコを作る材料に決まってるじゃん」

「杏子姉ぇ!」

 予想はしていたんだが、どうやら正解だったようだ。発表したのは杏子姉ぇだけど。

「やっ、マサ。いや~今日はホント凄かったよ」

「何が凄かったんだよ?」

「アヤちゃん、ゲーセンで知り合いにあったら絶対に『マサは一緒じゃないの?』って聞かれてたんだから」

「あー……」

 俺もさっきスーパーで麻子さんに言われたからなぁ。

 でも、そっか。綾奈も同じようなことを聞かれたのか。

 俺はちょっと嬉しくなって口角が上がった。

「あれ? でもゲーセンの知り合いって店長くらいしかいなくない?」

 他のスタッフさんとはほとんど話したことがないからな。顔見知り程度だ。となれば、やっぱりゲーセンには店長しかいないと思うんだけど……。

「実はゲーセンでしゅーくんにも会ってね」

「しゅーくん? ……ああ、修斗ね」

「そそ。しゅーくんにも言われてたんだよ」

「そっか……」

 うん。マジでそういうイメージが俺たちを知ってる人の中で定着したんだな……。

「お兄ちゃんお待たせ~……って、綾奈お義姉ちゃんに杏子お姉ちゃん!」

 俺がちょっと嬉しく思っていると、買い物を済ませた美奈が戻ってきた。A4サイズの本が入ってるであろう紙袋を両腕で抱えている。

「美奈ちゃん! こんにちは」

「みっちゃんやっほー。何買ってきたの?」

 杏子姉ぇが早速美奈がなんの本を買ったのか興味を示している。綾奈も言葉にはしなかったけど美奈が抱えている紙袋をじーっと見ていた。

「……チョコのレシピ本」

 俺もなにを買うのかは聞かされていなかったけど、さっきスーパーで買ったものを見ると想像もしやすいな。

「え!? みっちゃんもチョコ作るの!? あ、もしかしてしゅーくんにあげるの?」

「しゅー……もしかして横水!? ないない絶対ない!」

 この全力の否定……どうやら本当に修斗にはチョコをあげないようだ。あいつイケメンだし、貰ったらきっと修斗も嬉しく思うのに。

 だとすると、美奈が誰に手作りチョコをあげるのかますますわからなくなってきた。

「今ので誰に渡すのか、だいたいわかったけど、それは帰りながら聞こうかな。というわけでみっちゃん、一緒に帰るよ」

「え? ちょっと、杏子お姉ちゃん!?」

「え? 杏子さん!?」

 杏子姉ぇはにこにこしながら美奈と腕を組んだ。どうやら美奈を離す気はないみたいだな。

 一方の綾奈は、杏子姉ぇが急に美奈と一緒に帰ると言い出してびっくりしている。

 俺もびっくりしたけど、杏子姉ぇなりに気を使ってくれてるんだろうな。

「アヤちゃん今日はありがとう。とっても楽しかったよ」

「わ、私もとっても楽しかったですけど……杏子さん───」

「じゃあマサ。アヤちゃんをしっかり家まで送ってあげなよ。アヤちゃんもまた遊ぼうね。ほら行くよみっちゃん」

「ち、ちょっと杏子お姉ちゃん! 引っ張らないでよ。ちゃんと言うからー……」

 美奈と腕を組んだまま、杏子姉ぇが美奈を引っ張るかたちでそのまま書店から出ていってしまった。

「あ……」

 美奈と杏子姉ぇが見えなくなったところで、綾奈がかすかに声を出した。綾奈の顔を見ると、何かを理解したような表情をしているので、今やっと杏子姉ぇがどうして美奈と一緒に帰ったのかを理解したようだ。

「こほん。じゃあ俺たちも帰ろうか綾奈」

「うん。あ……」

 綾奈が右手を少し出して、そしてピタッと止めた。

 どうやら手を繋ぎたかったようだけど、俺の両手は美奈と綾奈がそれぞれ買った物を持っていたので見事に塞がれていた。

「真人。私の荷物を渡して」

「え? でも重いだろ?」

 なんかパック容器の物まで入ってるから、多分牛乳かな? 砂糖とかは買ってないみたいだけど、それは家にあるのを使うみたいだな。とにかく牛乳が入ってるから長時間綾奈が持つと考えたらちょっと重いはずだけど……。

「でも、真人と手を繋げないのは嫌なの。だから……」

「っ!」

 まったく……。嬉しいことを言ってくれるな俺のお嫁さんは。最高かよ!? ……最高だったわ。

「なら、美奈が買った物を持ってくれる? こっちの方が軽いから」

 美奈はそれほどいっぱい買い込んでないし、牛乳も入ってないから、美奈が買った物の方が圧倒的に軽い。

「わ、わかったよ。でも重くなったらいつでも言ってね? 交換するから」

「これでも少しは鍛えてるからね。大丈夫だよ」

 俺たちは笑い合い、手を繋いで書店をあとにするのだった。

 ……間違えて綾奈の買った物をそのまま持って帰らないようにしないとな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る