第463話 綾奈が杏子とデートをしている頃、真人は……

 土曜日の午後三時過ぎ、宿題を終わらせて自分の部屋でラノベを読んでいると、美奈がノックもせずに入ってきた。

「ねえお兄ちゃん」

「ノックしろよノック……」

 本当にたまにしかノックしないな。今年に入ってからノックした回数はゼロだぞ。

「え~いいじゃん。お義姉ちゃんいないからラノベ読んでるかゲームしてるかの二択なんだし」

 宿題と筋トレも選択肢に入れてください。

「まあいいけどさ。それよりもどうした?」

「……うん。ちょっと買い物に付き合ってほしいんだけど……」

「買い物? 別にいいけど何を買いに行くんだ?」

 というか、なんでそんな歯切れ悪くもじもじしてんだ?

「……チョコレートの材料とか」

「なるほど」

 だから美奈のやつ、そんなにもじもじしていたのか。

 だがそうなると、妹が誰にチョコをあげるのか気になってしまうのは妹を大切に思っている兄の性だ。決してシスコンではない。

「誰にあげるんだ? 修斗か?」

「は? ありえないからあんな奴」

 さっきもじもじしてたやつがすげー見下したような目をしている。

 そもそも美奈と普通に話してる男子は修斗くらいしか思いつかなかったから言っただけなんだけど……。

「とにかく! 明日マコちゃんの家で作ることになってるから、お兄ちゃんは荷物持ちでついてきてよ」

「え? もしかして手作り!?」

 まさか手作りだとは思わなかった。だとすると、美奈が誰に渡すのかますます見当がつかん。一哉か健太郎……翔太さんか拓斗さんあたりか?

「なに? 悪い? ?」

「キレるなよ。そこまで言ってないだろ。……とにかく着替えるから自分の部屋で待ってろ」

「うん。よろしく」

 美奈はそれだけ言うとパタンとドアを閉めて自分の部屋に帰っていった。

 俺はラノベに栞を挟み、クローゼットから適当な服を出そうとして、その手を止めた。

 多分今から行くのはアーケード内にあるスーパーだ。綾奈は今日、杏子姉ぇとゲーセンに行くって言っていたから、もしかしたら綾奈に会う可能性も捨てきれないよな……。

 既に日が傾きだしてるから、もう帰ってるかもしれないけど、本当に万が一ってこともあるから適当な服はやめておいた方が良さそうだ。

 俺はそれなりの服に着替え、美奈と一緒にスーパーへ向かった。


 スーパーに到着すると、俺はカゴを乗せたカートを引き、美奈はチョコ作りに必要な材料をぽいぽいと入れていく。

「てかお前、お金あるのか?」

「お年玉、まだ残してるから大丈夫だよ」

 お、偉いな。俺はもうほとんど使い切ったというのに。

「うん。こんなもんかな。お兄ちゃん、お会計済ませよ」

「あ、ちょっと待ってくれ。もしかしたら知り合いがいるかもしれないから」

 もしかしたら、今日も麻子さんはこのスーパーで試食用のウインナーを焼いているかもしれないからな。遊園地以来会ってないから、いたら挨拶をしたいと思い、惣菜コーナーへカートを押しながら歩いていると、麻子さんを見つけた。

「麻子さん。お久しぶりです」

「あら真人君! いらっしゃい。お久しぶりね」

「お久しぶりです真人さん」

「あれ? 凛乃ちゃんも来てたんだ。こんにちは」

 凛乃ちゃんがいるのには驚いた。義之さんはいないみたいだから、凛乃ちゃん一人で来たんだな。

「今日は綾奈ちゃんは一緒じゃないの?」

「そうですね。今日は妹と一緒に来ました」

「こ、こんにちは……」

 俺のすぐ後ろにいた美奈は、ここで初めて二人に対して口を開き、ぎこちなく会釈をした。

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