第462話 再会 菊本親子

 それから牛乳やお砂糖など、チョコ作りに必要な材料をカゴに入れて、お惣菜コーナーに足を運んだ。もしかしたらあの人がいるかもしれないから。

「あら綾奈ちゃん! いらっしゃい」

「こんにちは麻子さん。あれ? 凛乃ちゃんもいる。こんにちは」

「こんにちは綾奈さん」

 大晦日にこの場所で出会い、遊園地でも会った菊本麻子さん。今日も試食用のウインナーを作っていた。

 それにしても、麻子さんの娘さんの凛乃ちゃんまでいるとは思わなかったな。

「凛乃ちゃん、一人で来たの?」

「はい。家はここからわりと近いですし、もうすぐお母さんが仕事終わるので、一緒にお買い物をして帰ろうかと」

「偉いね凛乃ちゃん」

 私は凛乃ちゃんの頭を撫でた。凛乃ちゃんは確か十歳だもんね。それくらいは出来る年齢だよね。

「ところで綾奈ちゃん。そちらの人は?」

「あ、この人は……」

「中筋杏子です。マサ……中筋真人のいとこです」

 私が紹介しようと思ったら、杏子さんが自己紹介した。

 それにしても、杏子さんが真人をちゃんと『真人』って言ってるの、初めて聞いたなぁ。

「あらあらそうなの? 真人君のいとこさんなのね。私は菊本麻子、そして娘の凛乃よ。よろしくね杏子ちゃん」

「よろしくお願いします。麻子さん、凛乃ちゃん」

 凛乃ちゃんにあだ名をつけなかった!?

「……もしかして、氷見杏子さん?」

「「!」」

 杏子さんにぺこりとお辞儀をした凛乃ちゃんが、杏子さんの正体を見破った。サングラスとウィッグをしててもわかるんだ。

「しー」

 そんな正体を見破られた杏子さんは、私と一緒に驚いていたけど、すぐにサングラスを外し、人差し指を口につけ、ウインクをした。そんな杏子さんを見て、私はちょっとドキドキしてる。

「えっ、本当に!?」

「はい。ですが他言無用でお願いします。凛乃ちゃんも他のお友達には言わないでね?」

「ええ、もちろんよ。あなたがここにいるって知られたら大騒ぎだものね」

「わかりました」

「ありがとうございます」

 二人に誰にも言わないことを約束してもらい、杏子さんはサングラスをかけた。

「ところで綾奈ちゃん。真人君と入れ違いになっちゃったわね」

 落ち着きを取り戻し、ウインナーをまた作り始めた麻子さんが真人の名前を口にした。今日は何度も真人の名前を聞いたし、私も会いたいと思っていたので、麻子さんからの真人がここにいたという事実に、私の心臓は大きく跳ねた。

「ま、真人がここに来たんですか!?」

「ええ。十分くらい前かしら? 妹さんと一緒に来てたわよ」

「そう、なんですね……」

 旦那様と入れ違いになって会えなかったことに肩を落としてしまった。自分で思ってる以上に真人に会いたかったみたい。

「でもこのあと本屋さんに行くって言ってたので、まだいるかもしれませんよ」

 この話にまさかの続きがあって、私は目を見開いて凛乃ちゃんを見た。

「ほ、本当!? 凛乃ちゃん!?」

「はい」

「き、杏子さん! あ、あの……」

「じゃあパパっと会計済ませて、本屋に行こっか」

「はい! 麻子さん、凛乃ちゃん。申し訳ないですが……」

「いいのよ気にしなくて。それよりも早く行かないと真人君帰っちゃうわよ」

「お会いできて嬉しかったです。綾奈さん、杏子さんもまた会ってくださいね」

 何も言わずもとも理解してくれた杏子さんに、そして麻子さんと凛乃ちゃんにも感謝しかないよ。

「ありがとうございます。麻子さん、凛乃ちゃん。また会いましょう」

 私は二人に会釈をし、お会計を手早く済ませて本屋さんに向かった。

 そしてアニメ雑誌のコーナーを覗くと、会いたかった旦那様を発見した。

「真人!」

 私は買い物袋を持ったまま、真人の元へ駆け出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る