第459話 綾奈と杏子のデート当日

 真人のほっぺをすっごく触って、それからイチャイチャした翌日の土曜日、私は杏子さんと二人でアーケード内にあるゲームセンターに来ていた。

 杏子さんが初めて私の家に来た時にした約束を実行する日が来た。

「へ~、やっぱり学生の男の子が多いね」

 サングラスをかけた杏子さんがゲームセンターをキョロキョロと見渡しながらそんな感想を呟いた。

 杏子さんは、ここに来る前に変装をしていた。

 黒のサングラスで目を隠し、紫色の綺麗な髪を黒いロングヘアのウィッグで隠し、その上にはキャップをかぶっている。そしてそんなキャップにあわせて、服装もボーイッシュな装いだ。

 女優さんだから当然だけど、杏子さんは綺麗でスタイルがいいから何着ても似合ってちょっと羨ましい。

 ちなみに私は白のニットにチェック柄のロングスカートといったガーリーな装いだ。

「アヤちゃんはここに来ていつもどれで遊んでるの?」

「いろんなゲームをやってますよ。クレーンゲームにエアホッケー、プリクラとか、本当にいろいろです」

「プリクラいいね! あとで一緒に撮ろうよ!」

「は、はい!」

 き、杏子ちゃんと一緒にプリクラ!? すっごい嬉しいけどすっごい緊張してきちゃった。

 真人とのプリもそうだけど、杏子さんとのプリも宝物になりそう。

「じゃあ最初はどれやろっか?」

「エアホッケーなんてどうですか?」

 緊張をほぐすために、ちょっと身体を動かしたかった私はすぐにエアホッケーを提案した。

「エアホッケーすっごい久しぶり! アヤちゃん強いの?」

「真人とは互角ですね」

 そういえば、最近はここに来て真人とエアホッケーをしていない。前にここに来たのは私の誕生日だったけど、あの日は誕生日記念のプリクラを撮ってすぐに猫カフェ・ライチに行ったから時間もなかったし。

 次の真人とのデートはここに来てエアホッケーかな?

「マサが強いのかはわからないけど、負けないよアヤちゃん」

「私もです! 相手が杏子さんだからといって手加減しませんよ」

 ちょっとワクワクしながらエアホッケーの場所まで歩いていると、前からすごく大きい人が歩いてきているのが見えた。言うまでもなく、ここの店長さんの磯浦颯人さんだ。

「店長さん、こんにちは」

「西蓮寺さん。いらっしゃい」

 私は店長さんを見つけると駆け寄って挨拶をした。店長さんも笑顔で挨拶を返してくれた。

「今日は中筋君は一緒じゃないのかい?」

「そうですね。今日はこの人と一緒に来ました」

 私はゆっくりとこちらに歩いてくる杏子さんを見て言った。

 それから店長さんを見ると、店長さんは少しだけ驚いた表情をしていた。

「西蓮寺さんが中筋君以外とここに来るのは珍しい……というか初めてだね。それに、見たことない人みたいだし」

「はじめまして。店長さんのことはこのアヤちゃんから聞いていて、ちょっとお会いしてみたいと思ってたので嬉しいです。いつもうちのマサがお世話になっているようで、ありがとうございます」

 杏子さんが店長さんに深々と頭を下げている。普段は真人をからかったり振り回していることが多い杏子さんだけど、やっぱり目上の人にはすごく礼儀正しい。芸能界ってそういうのは厳しいって言うし、そこに身を置いている杏子さんは自然と作法とかが身についたんだろうなぁ。

「ん? 「うちのマサ」って……君は一体?」

 店長さんが首を傾げている。杏子さんもまっさきに自己紹介をしてもいいのに、驚かそうと思ってわざと自己紹介をあとにしているのかな?

 あ、杏子さんが変装用のサングラスを外した。素顔をさらして、にっこりと笑って店長さんを見ている。

「マサのいとこの中筋杏子です。今は活動休止してますが、氷見杏子の名前で役者やってます」

「なっ……!」

 店長さんは杏子さんを見てすごく驚いて、大きな声が出そうだったのを咄嗟に手で口を隠してそれを防いでいた。

 そんな杏子さんは、店長さんが驚いているいだにまたサングラスを装着して変装モードになった。

 ここに『氷見杏子』さんがいるってお客さんにバレたら大騒ぎになっちゃうからね。

「驚いた……。まさかあの人気俳優が中筋君のいとこだったとは」

「お義兄さんやお姉ちゃんから聞いてなかったんですか?」

 てっきり相棒のお義兄さんは言ってるのかなって思ったけど。

「最近はショウや麻里奈ちゃんとは会ってないからね」

「そうなんですね」

「アヤちゃん。店長さんは翔太さんと知り合いなの?」

「店長さんとお義兄さんは親友さんなんですよ」

「そうなの!?」

「まぁ、腐れ縁みたいなものだけどね」

 昔は最強のヤンキーと言われていたらしいお義兄さんと、その相棒だった店長さんだから、腐れ縁なんて言葉では片付けられないくらい強い絆があると思うけど……。

「おっと、ここで立ち話してると杏子さんの存在がバレるかもだし、俺も仕事があるから行くよ。二人とも、ゆっくり楽しんでね」

「わかりました。お仕事頑張ってください」

「私もたまにここに来ますね~」

 店長さんは笑顔で手を振りながら仕事に戻っていった。離れていても大きい背中が目立つ。

「あの店長さん、いい人だね」

「それにとっても優しいんですよ」

「また近いうちにここに遊びに来よう。今度はマサを引き連れて」

「あ、あまり真人を振り回さないでくださいね」

 真人は杏子さんといるといつも疲れた顔してるからちょっと心配。初めて杏子さんに会った時とか、初めて杏子さんがうちに来た時とか……。

「それよりもアヤちゃん。早くエアホッケーしに行こうよ!」

「わわ、ひ、引っ張らないでくださいー……」

 杏子さんは私のお願いをスルーしたかと思えば、私の手を引いてエアホッケーの場所に向かって走り出した。

 真人のことがちょっと心配だけど、そうそう何度も疲れるほど振り回したりしない……よね?

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