第458話 攻守交代……と思いきや
俺はゆっくりと手を伸ばし、人差し指で綾奈の頬に触れた。
「柔らかい」
触れた瞬間、自然とそんな言葉が出た。
正直、もう何度触ったかわからない綾奈の頬。だけど、普段はイチャイチャする流れで自然とここに手が伸びていたんだけど、いざこうして、意識して触れると、本当に柔らかくてもちもちしてるんだよな。
女の子の肌って、どうしてこんなにも柔らかいんだろうな。
俺が半ば無意識に綾奈の頬をつんつんぷにぷにしていると、綾奈から「ふふっ」という笑い声が漏れた。
「真人くすぐったいよぉ」
「あ、あぁ……ごめん。柔らかくて触り心地がめっちゃよかったから、つい」
俺は綾奈の頬からパッと指を離した。
ちょっと触りすぎたかな? いくらお嫁さんとはいえ、触りすぎは良くなかったか。
「……そんなによかった?」
俺をまっすぐ見て言う綾奈。その頬はさっきよりも赤く、そして上目遣いになっている。可愛すぎてさらにドキドキしてくる。
「う、うん。改めて、癖になりそうだよ」
「えへへ、嬉しい。じゃあ、もっと触っていいよ」
綾奈はまた、俺の正面に、その柔らかくほのかに赤らんでいるままの頬を出してきた。
なんだろうな。別にいらやしい場所を触っているわけでもないのに、普通に恋人としてのスキンシップのはずなのに、変に緊張してきた。
俺はまたゆっくりと手を伸ばし、今度は手の甲で綾奈の頬に触れる。
「ん……」
俺が触れると、綾奈はちょっと艶めかし声を出し、身体がピクッと跳ねた。さっきはそんなことなかったのに、綾奈もちょっとドキドキしてるのかな?
俺は綾奈の頬を、手の甲で下から上へと何度も滑らせていく。
柔らかいだけじゃなくてすべすべだから、マジで最高の手触りだ。
「……っ」
十回くらい同じように下から上へと手の甲を滑らせたのち、俺は綾奈の頬から手を離し、代わりに顔を近づけ、そして綾奈の綺麗な頬に軽くキスをした。
「あ……」
キスをされた綾奈は、頬をさらに赤く染め、キスをされたところを自分の手で触れ、驚いた表情で俺を見ている。
「その、ついしたくなって……驚かせてごめん」
俺は綾奈から目を逸らし、手の甲で自分の口を隠した。
綾奈は普通にじゃれていただけなのに、もうちょい自分のこの衝動を抑えないといけないな。
「…………る」
「え?」
自分の行動に反省していると、綾奈からかすかに声がして、俺はまた綾奈の方を向き、聞き返す。
「私も真人のほっぺにちゅうする!」
「っ!」
言い終わると、綾奈はすぐにベンチの上で膝立ちになり、俺の両肩を手で掴み、そしてすぐに俺の頬に唇を押し当てた。
「ちょ、綾奈!?」
綾奈はやっぱり甘えモードに入っていたんだ。入りが浅かったからなのかはわからないけど、さっきまでは感情のコントロールが出来ていたけど、俺がキスしたことがスイッチとなって、一気にモードを深めたんだ。
綾奈の行動の早さにはびっくりしたけど……俺ももっとイチャイチャしたいけど、一つだけ気がかりがある。
「あ、綾奈。ちょっと待って」
俺も綾奈の両肩を持ち、少し力を入れて綾奈を俺から引き剥がした。
「……むぅ、もっとほっぺにちゅうしたいのに」
突然引き剥がされたから頬を膨らませてしまった。そんな表情もめちゃくちゃ可愛い。
「俺もしてほしいししたいけど、その前に膝、痛いでしょ?」
「え?」
俺と綾奈は二十センチくらいの身長差があり、綾奈が先導でキスをする場合は今みたいに膝立ちにならないと難しい。
だけどこの公園のベンチは木製。わりと年季も入っているし、雨風にも晒され続けていたからちょっと傷んでいる。
そんなベンチでずっと膝立ちしていると絶対に膝はいたくなるだろうし、綾奈が履いているニーハイにもダメージがおよんでしまう。
「だから……はい。膝の下に、これを敷いて」
俺は自分のカバンからマフラータオルを取り出した。手を拭く用に持っていたやつだ。
今日も何回か使ってしまっているが、これを膝の下に敷けば痛くないはずだ。
俺はマフラータオルを二度折り、それをベンチに置いた。
「はい。この上に立てば、膝は痛くないだろ?」
「あ、ありがとう真人。それから、不機嫌になっちゃってごめんね」
「気にしてないよ。まさかタオルを出して敷くなんて誰だって思わないしね」
俺が綾奈の立場でも絶対に不満を口にするだろうな。
「というわけで、はい、どうぞ」
俺は綾奈が頬にキスしやすいように、さっきの綾奈みたいに自分の頬を綾奈の正面に向けた。これで綾奈もバランスをとりやすくなるだろう。
だけど、待てども綾奈がキスする気配はない。どうしたんだろう?
「……真人」
「ん? どうしたのあや……っ!?」
綾奈の顔を見た俺は息をのんだ。
綾奈は頬を真っ赤に染め、目をとろんとさせ、自分の人差し指の腹を下唇に当てて、こう言った。
「ほっぺもだけど……
あざとかわいい仕草からのこの殺し文句。この最強コンボを前に抗えるやつなんていない。
「も、もちろんいいよ。……おいで」
「うん!」
それからは日が沈むまで、お互いの唇と頬にキスの雨を降らせるのだった。
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