第8章 来たるバレンタイン!

第453話 もうすぐバレンタイン

 綾奈がダイエットをはじめてから二週間近くが経過した二月六日の月曜日。

 イベントがてんこ盛りで目まぐるしかった一月が終わり、杏子姉ぇがこの風見高校に転校してくるという事件もだいぶ落ち着いてきたのだが、それとは別に、男子も女子も少しずつそわそわし出す人が増えてきた。

 その理由はひとつしかない。


 そう。来週に迫ったバレンタインデーだ!


 俺たち一年生は、当然ながら高校に入ってからはじめてのバレンタインデーだ。

 環境が変わり、新しい人間関係を構築しての、満を持しての一大イベントだ。うちのクラスは男女の仲は悪くないから、男子は誰にチョコをもらえるのかを予想する声がちらほらと聞こえるんだよな。

「だが、一番環境が変わったのはお前だろうな」

 昼休み、いつものように一哉と健太郎と三人で昼食を取りながらそんな考えをしていると、突然一哉がそう言い放った。ちなみに香織さんはクラスの女子と食べている。

「俺?」

「ああ。西蓮寺さんと付き合ってるのが一番大きいが、お前の周りに女子が増えたよな」

「まぁ……確かに」

 言われてみれば、去年の今頃は仲のいい異性は茜と茉子しかいなかった。

 だけど今は綾奈と婚約して、その綾奈の親友の千佳さんをはじめとして何人もの異性の友達も出来た。

「というか、それは健太郎も同じだろ? 見た目だって変わったし」

 健太郎は高崎高校の文化祭まで、長い前髪で目が隠れていた。それが千佳さんのためにイメチェンして、今ではめちゃくちゃなイケメンになっている。

「確かに僕は見た目は変わって千佳と付き合えたけど、やっぱり環境の変化なら真人が一番だと思うよ」

「そうそう。見事に高校デビューを果たしたしな」

「高校デビュー言うな! だいたい、そんなふうに思ったことなんてないよ」

 綾奈とどうにかお近づきになりたくて頑張っただけであって、結果として高校デビューみたいになっただけだ。

「でもまぁ、そのおかげでお前は今年、西蓮寺さんをはじめ、けっこうな女子からチョコを貰うことになるんだからいいじゃないか」

「そう、だな」

 だけど一番楽しみなのは、やっぱりお嫁さんである綾奈のチョコだ。綾奈はどんなチョコをくれるのか、今からめちゃくちゃ楽しみだ。

「姉さんもはりきってたよ」

「そ、そうなんだ……」

 雛先輩もはりきってるんだ。リアクションに少し困るが、それを聞いて嬉しくないわけはない。

「照れんな気持ち悪い」

「うるせえ!」

 こいつはすぐ辛辣なことを言いやがって……ここは綾奈を思い出して忘れるんだ。

『真人かわいい♡』

 満面の笑みでそう言ってくる綾奈が脳内に現れた。……うん。綾奈可愛い。

 気持ちを落ち着けたところで、俺はあることを思い出した。

「それはそうと、一哉が茜と付き合いだしてからもうすぐ一年だろ? なにかするのか?」

 一哉と茜が付き合いだしたのは、俺たちの受験が終わったすぐあと、今月の下旬頃だ。

 つまり、バレンタインが終わって少ししたら、一哉たちの記念日がやってくる。

 俺たちの中で付き合ってる日数が一番長い二人だ。どんな風に記念日を過ごすのかは、野暮だと思うけどやっぱり気になってくる。

「まぁ、色々して過ごすつもりだよ」

「そっか」

 一哉はそう濁したけど、それだけで十分伝わった。

 一哉もすごく嬉しそうな表情をしていたから。

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