第452話 杏子にタメ口を使えるか……?

 杏子さんにダイエット効果のあるストレッチと、体が柔らかくなるストレッチを教えてもらって、それをいくつか実践し、今は休憩をしてるんだけど、私はけっこう息が上がっていた。

「なかなか体力使いますね」

「すぐに慣れるよ」

 杏子さんは東京にいた頃からずっとやってきたのかな? 杏子さんも一緒にやってくれたんだけど息一つ乱れてない。

 女優さんは身体が資本だから、きっとスタイル維持に相当な努力をしてきたはず。私も見らなって頑張らないと。

「頑張ります!」

「その意気だよアヤちゃん。だけどストレッチは代謝を上げたり、身体の柔軟性を向上させ、太りにくい身体にするのが主だからね。マサと一緒にランニングしてるから問題ないと思うけど」

「はい。わかりました」

 確かにストレッチも体力は使うけど、それだけで簡単に痩せれるとは思ってない。

 これからも真人と一緒にランニングは続けていくつもりだし、筋トレもしようかなってちょっと考えてる。

 前に真人から、筋トレをよくやっている女性声優さんがいるって聞いたことがあるし、その様子をSNSや動画サイトにアップしているとも聞いたことがあるから、今日の夜にでも見てみようとも考えている。私って本当に筋肉ないからなぁ……。

 高校入学したあとに行われた体力テストで、握力も想定したんだけど、物静かなせとかちゃんにも負けちゃったし。

 来年度にも体力テストはあるから、その時にはせとかちゃんに勝ちたい。

「……」

 私が一人でそんな決意を固めていると、隣にいる杏子さんが私をじーっと見ていることに気がついた。

 大ファンの人に見られてちょっとドキドキしちゃったんだけど、杏子さんの表情が笑っていない。半目で私を見つめていた。

「え? ど、どうしたんですか杏子さん」

 なにか失礼なことをしちゃったのかなと思い、さっきとは違ったドキドキが私の中で大きくなっていった。

「アヤちゃんはいつまで私に敬語を使うのかなーってね」

「……え?」

 だけど、杏子さんが放った不満の言葉は、私の予想していたものとは違っていた。

「えっと……杏子さんは私の憧れている人で、それ以前に先輩ですから……」

「そう思ってくれるのは嬉しいけど、アヤちゃん……あかねっちには普通にタメ口じゃん」

「う……」

 茜さんにはいつの間にかタメ口で話していたのは確かだよ。茜さんは気さくで優しくて、私ももっと仲良くなりたいって思ってたから。

「アヤちゃんはマサと婚約関係にあるんだから、私たちはもう従姉妹いとこどうしっていってもいい間柄じゃん?」

「た、確かにそうかもですが……」

「私もアヤちゃんとはもっともっと仲良くなりたいし、妹に敬語で話されるのはちょっと距離を感じちゃうな~」

「うぅ……」

 た、確かに私も杏子さんともっと仲良くなりたい。

 真人と美奈ちゃんも普通にタメ口で杏子さんと話しているけど、あの二人はうんと小さい頃から杏子さんと接していて、それで数年ぶりに再会しても昔のままで接することができてるんだ。

 私も、杏子さんにタメ口で……。

「えっと……もう少しだけ時間、もらえますか?」

 試みようと思ったけど、やっぱりいきなりは無理だった。せっかく杏子さんが機会をくれたのに……。

「もちろんだよ! 待ってるねアヤちゃん」

「はい。杏子さん」

 杏子さんにタメ口で話せるようになったら、心の距離ももっと近くなる気がする。

 私は頭の中で、ちぃちゃんと同じように、杏子さんとタメ口でなんでもお話出来る間柄になった未来を想像して、自然と口角が上がっていた。

 だから頑張ろう。そんな未来が少しでも早く来るように……。

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