第448話 理性が崩れた真人は

「……ふぅ」

 その日の夜、風呂から上がり髪が少し濡れたまま、俺は自分のベッドに腰を下ろした。

 身体が熱い。それだけでなくて心臓の鼓動が早くて強い。

 お風呂上がりだからってだけではもちろんなくて、綾奈の部屋での出来事を思い出して、こんなにもドキドキしていた。

 綾奈のもも裏をマッサージして、綾奈の美脚の柔らかさを手のひらと指全体で堪能し、さらにはあんな声をほぼ断続的に聞いていた俺は、理性のダガが外れてしまい、マッサージを終えたあと、キスしたいことを伝えた。

 本当はそんな確認をとらずにキスをしたかったけど、そこは踏みとどまった。自分を褒めたい。

 俺がキスしたいことを伝えると、綾奈の顔がボッと赤くなり、めちゃくちゃテンパっていた。

 やっぱり困らせてしまったかと思ったんだけど、それから少しして、綾奈は仰向あおむけになり、両手を広げ、そして微笑んでこう言った。


「おいで」


 そこからはもう……ヤバかった。

 タガが外れていた俺は、いつもより激しく綾奈の唇を貪り、手は自然と綾奈の胸へと吸い寄せられた。

 そこに触れたのは俺の誕生日以来だった。

 しばらくキスをしながら、俺の手は綾奈のももに触れた。

 俺の手が綾奈の太ももに触れた瞬間、綾奈から「ん……!」という艶のある声が聞こえて、身体がピクッと跳ねていた。

 俺が予告なく触れたのと、俺の手……特に指先が冷たかったからだろうな。

 しばらく綾奈のもものやわらかさや手触りを堪能した俺は、何を思ったのかキスをやめて起き上がり、顔を綾奈の脚に近づけ、今度は綾奈の脚にキスをした。

 いや、「何を思ったのか」ではないな。綾奈の脚をマッサージしていたからだ。

 これにはさすがの綾奈もすごくびっくりしていたな。

「ふえっ!? ま、ましゃと……あ!」って言って……。

 だけど拒んだりはせず、俺にされるがままになっていた。

 キスをする度に綾奈の身体がピクピクして、可愛らしい声も漏れるものだからこっちまでゾクゾクした。

 すねや膝、太ももにもキスをして、それから綾奈の顔を見ると、俺が「キスしたい」って言った時よりも赤くなっていて、目には涙が滲んでいた。

 綾奈が微笑み、目を瞑ったので、再び綾奈の唇にキスをしようと思ったんだけど、唇が重なる直前に、一階から明奈さんの『ただいまー』という声が聞こえてきて、一気に現実に引き戻された。

 俺も顔がめちゃくちゃ熱かったので、お互い至近距離で、顔が赤いまま目をぱちくりさせて、どちらともなく吹き出した。

 でも、あのタイミングで明奈さんが帰ってきてくれて助かった。

 そうじゃなかったら、さらに綾奈を求めて大変なことになっていたかもしれないから……。

 窓側から視線を感じたのでそちらを見ると、俺たちをじ~っと見つめる二匹の猫のぬいぐるみ、まぁくんとあーちゃんがこちらを見ていた。

 そういえば前回も、そしてお泊まりした時もイチャイチャの一部始終を見られてたんだよな。

 今度からここでイチャつく時は、まぁくんとあーちゃんには悪いが後ろを向いといてもらおう。

 暗くなってきたので帰ることにし、明奈さんに挨拶をしたら、明奈さんに夕飯のお誘いを受けたのだが、母さんに夕飯はいらないと言うにはちょっと遅い時間だったので今回はお断りをした。

 明奈さんの料理はマジで美味しいからな。次はご相伴にあずかろうかな。

「それにしても、綾奈は今頃どうしてるのかな?」

 俺と同じで、さっきのことを思い返していたりして───


「うぅ~……」

 お風呂から上がった私は、濡れた髪をそこそこに乾かして、枕に顔を埋めていた。

 考えているのは、マッサージ後の真人とイチャイチャしたこと。

 真人……いつもより積極的だった。

 ちゅうはいつもより激しかったし、自分から私の胸に、そして太ももにも触れてたし……。

 びっくりはしちゃったけど、全然嫌とかじゃなくて嬉しかった。

 いつも以上に私を求めてきて、すごくドキドキした。

 私は枕から勢いよく顔を離し、膝を曲げて体育座りをした。

 そして自分の脚を下からゆっくりと触れる。

「まさかましゃとが脚にもキスするなんて……」

 あの行動にはすっごくびっくりしたなぁ。

 真人にキスされた一箇所一箇所にそっと触れていく。キスをされた感覚がまだ残っているみたいで、思い返す度に鼓動が早くなる。

 もうちょっとで眠る時間なんだけど、ドキドキしすぎてとてもじゃないけど眠れそうにない……。

 明日ももちろん早朝のランニングはするし部活もあるから早く寝ないと!

 それから明日はお昼から杏子さんがうちにやって来る。

 普段から掃除はしてるから綺麗だけど、明日部活に行く前に、軽く掃除機をかけようかな。

 ふふ、明日も楽しい一日になりそう。

 軽く腹筋などの筋トレをして、私はベッドに潜った。

「おやすみなさい。真人」

 そして、ここにはいない最愛の旦那様の代わりに、猫のぬいぐるみのまぁくんに向けて挨拶をし、しばらくして夢の中へと旅立った。

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