第446話 数時間前、昼休みの女子トーク
私は今しがた自分が言ったことが、とんでもなく恥ずかしくて大胆なことだと理解していたけど、言ったあとでさらにドキドキしてしまい、顔はおろか耳まで熱くなっていた。
ち、ちぃちゃん……本当にこれでいいの?
時は数時間遡り、この日の昼休み、高崎高校の屋上。
私は昨日と同じく、お友達三人と一緒にお昼を食べていたんだけど……。
「痛い……」
昨日からのランニングの影響で、私の脚は全体が筋肉痛になっていた。そのおかげで階段を上るのも一苦労になっていた。
「綾奈ちゃん大丈夫?」
「な、なんとか……」
「四限目が体育だったから、かなり痛そう」
「ボール持ったらすぐにあたしか乃愛にパスしてたけどね。今朝も走ったんでしょ?」
「もちろん。真人と一緒に走ったよ」
筋肉痛が原因で昨日より走るペースが遅くなっちゃったけど、なんとか乗り切ることが出来た。この調子で頑張らないと!
「頑張ってるね綾奈ちゃん!」
「うん。やっぱり真人が一緒だから」
一人だと既に音を上げていて挫折していたかもしれない。真人がいてくれて本当に助かってる。
「ところで綾奈。あんた今日の放課後も真人と会うんでしょ?」
「もちろんだよ。放課後が待ち遠しいよ」
今日のデートはどうしようかな?
……やっぱり筋肉痛だから、真人には悪いけど今日もお家デートにしてもらおうかな?
今日のデートプランを一人で練っていると、隣にいたちぃちゃんがニヤリと笑った。な、何を閃いたんだろう?
「じゃあさ、放課後、真人にマッサージをお願いしたら?」
「マッサージ?」
ちぃちゃんの意図がわからなくて、小首をかしげて聞き返す。
「そ。筋肉痛で苦しんでる綾奈の脚を、真人に優しく揉みほぐしてもらうんだよ」
「真人に、私の脚を……っ!」
頭の中で真人にマッサージをしてもらう場面を想像した私は、ちぃちゃんの言葉の意味を遅れて理解し、顔が一気に熱くなった。
「綾奈は真人に触れてもらえるし、脚も楽になる。そして真人も綾奈の脚に触れられる理由になるからウィンウィンじゃん。それに……」
そこまで言って、ちぃちゃんは顔を私の耳に近づけてきた。
「どうせ真人はまたキスまでしかしてないんでしょ? そこからエッチな展開に持っていきやすいっしょ?」
「~~~~~!」
私の顔はさらに熱くなり、声にならない声を出していた。
「ま、頑張んなよ」
「ち、ちぃちゃん!」
た、確かに、真人はキスまでしかしてこないし、触れるのだって、いつも手を握ったり頭を撫でたり、キスをする時なんかは背中に手を回すくらいで、それ以外の場所には不用意に触れたりしてこない。
それは真人の優しさで、私が不快に思うかもしれないからっていう気持ちからきてるものだと思う。
そんな優しい真人は本当に大好きなんだけど、たまにはもっといろんな部分に触れてほしいと思っているのも事実。
さっき真人に言ったけど、真人に触れられて嫌な部分なんてどこにもない。旦那様には、もっともっと触れてほしい。
だから、なのかな? 自分から、ももの裏もマッサージしてほしいって真人に言っちゃったのは。
真人のマッサージは上手で、確かに痛かったけど、それは筋肉痛故の痛さで、だけど気持ちよさもあった。
おかげでふくらはぎは軽くなった気がする。
真人のマッサージをもっと体験したくて言ったんだけど、真人は「え?」って言っただけで、あれから反応がない。
私はうつ伏せの状態から、上半身をひねって真人を見たんだけど……。
「え?」
真人の頬は信じられないくらい真っ赤になっていた。
ももの裏もマッサージしてほしいなんて……本気か?
本当にそんなところに触れていいのか?
顔がめっちゃ熱い。心臓の音もうるさい。
俺は震える声で綾奈に尋ねた。
「綾奈……え? マジで?」
「う、うん。いや……かな?」
「い、嫌じゃないけど……」
ももはふくらはぎよりも敏感な場所だ。
ふくらはぎのマッサージでさえ、あれだけ声を出していたんだ。もも裏のマッサージなんてやってしまったら、綾奈はさっきよりもなまめかしい声を出してしまって、今度こそ俺の理性が崩壊しかねない。
綾奈はそれをわかっているのか?
「わ、私は大丈夫だから。ふくらはぎのマッサージも気持ち良かったから、もも裏もお願いしたい。そ、それに……真人には、もっと……いろんな場所に、触れてほしいから」
声にデクレッシェンドがかかり、徐々に弱くなっていった綾奈の声だけど、しっかりと聞こえた。
これは、やらないという選択肢はないな。
「わかった。だけど出来るだけさっきみたいな声は抑えてね」
「ぜ、善処するね」
「そこは茜たちのマネをしなくていいから」
どうやら綾奈も狙って言ったみたいで、「バレた?」と言って、えへへと笑った。
俺もつられて笑い、いい意味で緊張がほぐれた。
「じゃあ、もも裏もやっていくね」
「うん。お願いします」
理性……もってくれよ!
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