第443話 綾奈の筋肉痛を案じる真人

「綾奈、筋肉痛はどう?」

 綾奈の部屋に行き、前回同様、明奈さんが甘さ控えめなココアを持ってきてくれて、買い忘れた物があるから出掛けてくると行ってから部屋を出ていったあと、俺と綾奈は、手を繋ぎ、腕をピタッと密着させるほどくっついて座り、綾奈にそんなことを聞いていた。

 走り始めて二日……今朝も痛がっていたし、授業にも支障が出たと思うし、さっき階段を上るのもいつもよりゆっくりだったしで心配だったから。

「確かに痛いけど大丈夫だよ。ありがとう真人」

 そう笑顔で言いながら、綾奈は自分のふくらはぎを軽くもんでいた。

「ならいいんだけどさ……体育はなかったの?」

 体育があった場合、内容にもよるけど、かなりキツかったと思うのは想像にかたくない。さすがにその日の授業までは把握してないので、綾奈の身を案じていた俺は、「なかった」と言ってほしかったのだが───

「……あったよ」

 どうやらそんな俺の望みは儚く飛ばされてしまった。

「そ、そっか……何をやったの?」

「バスケだよ」

「うわぁ……」

 俺は顔が引きつってしまった。

 バスケと言えば、コート上を縦横無尽に動き回るスポーツ……絶賛筋肉痛の綾奈にはかなりキツイ競技になったに違いない。

「だ、大丈夫だった?」

「うん。私が運動苦手なの、クラスのみんなも知ってるから、私にはあまりパスが来なくて、ちぃちゃんと乃愛ちゃんが活躍してたよ」

 綾奈にあまり負担がなかったことを聞いて、俺は胸を撫で下ろした。

「それならまぁ、よかったよ。というか、千佳さんはともかく、江口さんも運動神経いいんだね」

 千佳さんは小学校の頃から運動神経がいいのは知っていたから特に驚かなかったけど、江口さんも千佳さんに負けず劣らず上手いのか。元気で活発だからな。

「うん。私は二人と同じチームになったんだけど、二人ともすごい活躍で圧倒してたよ」

「その二人が相手だと、対戦チームに同情しちゃうな」

「せとかちゃんが敵チームだったんだけど、やれやれって感じで二人を見てたよ」

「楠さん……」

 楠さんは大人しいから、江口さんとは反対で運動が得意なイメージはない。上手くやりすごしてそうなイメージが浮かんだ。

「だから体育もなんとか乗り切ったよ」

「お疲れ様綾奈」

 俺は綾奈の頭を優しく撫でた。

「えへへ。ありがとう真人。でも、もう少しチームに貢献したかったなぁ」

「今日の綾奈はベストコンディションじゃなかったんだ。だから仕方ないさ。また次の体育で活躍しよう」

「うん。次の体育からはマラソンだし、三月には学年、男女別のマラソン大会があるから頑張るよ!」

 綾奈は両手を胸の高さまで上げ、握りこぶしを作り、ふんすと気合を入れていた。

「頑張れ。俺も綾奈が活躍できるよう、精一杯サポートするからね」

「ありがとう真人。真人のサポートがあるならすごく心強いよ」

「支え合うのが俺たち……夫婦だもんな」

 俺たちは互いに笑いあい、軽くキスをした。

 顔を離すと、綾奈は頬を朱に染めて微笑んでいたけど、すぐに眉を下げてしまった。

「ごめんね真人」

「謝らないでいいって。綾奈を支えれるの、すごく嬉しいんだから」

 俺にそんな遠慮は不要だよと言わんばかりに、俺は笑って綾奈の頭をまた撫でる。

「えっと、さっきのごめんねはそっちじゃなくて」

「え?」

「また、お家デートになっちゃって……だからごめんね」

 あ、そっちの謝罪なのか。

 というか、綾奈のせいじゃないだろ。

「綾奈は筋肉痛で、長時間歩くのは大変だから気にしないでいいよ。そもそも今日は杏子姉ぇにここの場所を教えないといけなかったんだから、お家デートになるのも必然だよ」

 だからこれは誰のせいでもないんだ。

「それに、綾奈と一緒ならどこでも嬉しいし、ましてや綾奈のプライベートスペースに入れること自体、幸せだよ」

「う、うん。変なこと言っちゃってごめんね」

「いいよ」

 俺たちはまた顔を近づけ、今度は長いキスをする。

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