第440話 お疲れの綾奈

 放課後、部活を終えた私はお姉ちゃんに呼び出され、音楽準備室でお姉ちゃんと立ったまま向かい合っていた。

「綾奈。今日はどうしたの? 声にいつもの伸びがなかったし、それになんでそんなに疲れてるのかしら?」

 お姉ちゃんの言うように、今の私は疲れきっていた。

 理由は明白で、真人との早朝ランニングが原因だった。

 朝ごはん食べたあとはちゃんと身体を休めてたし、今日は体育もなかったから大丈夫って思ってたのに、ちょっと甘かったみたい。

 五限目の途中から急に眠気が襲ってきて、何度もウトウトしちゃった。

 幸いにも、先生にあてられることはなかったけど、授業中に寝そうになったのなんて初めてだよ……。

 部活の時間になっても疲れは取れず、お姉ちゃんの言うように、今日はうまく声も出せなかった。

「じ、実は……」

 私はお姉ちゃんにダイエットをしていることと、今日のランニングについてを正直に話した。

 私が話しているあいだ、お姉ちゃんは相槌だけ打って聞き役に徹してくれていた。

「そう。朝早くから真人と走ってたのね」

「う、うん。ごめんねお姉ちゃん。迷惑かけちゃって」

「いいわよ。理由も理解できるしね」

「うん。ありがとうお姉ちゃん」

 お姉ちゃんはにこっと微笑んで許してくれた。お説教があるのではと思っていたから助かった。

「それにしても、綾奈がダイエットなんてね。昨日拓斗がテンション高めに綾奈に電話しに行ったと思ったら、帰ってきたらすごく沈んでた理由がわかったわ」

「あ、あはは……」

 あの時はダイエットを決意した矢先だったから、つい拓斗さんに怒っちゃったけど、ちょっと悪いことしちゃった。

 それに、ダイエットのこと、お姉ちゃんやお義兄さんには言わなかったんだ。

 普段はタイミングが悪くて、ちょっと見た目が不良っぽい拓斗さんだけど、妹のちぃちゃんと同じで根はすごく優しい人で、小さい頃から本当のお兄さんのように慕っていた。

「綾奈は明日も真人と走るのかしら?」

「うん。そのつもりだよ」

 明日は部活がお休みだから、授業さえ乗り切ってしまえば、放課後は真人とデートが出来る。明日は今日より頑張れそう。

「綾奈のクラス、明日は体育があったでしょ? 走るなとは言わないけど、無理はしないようにね」

「う……あ、ありがとうお姉ちゃん」

 そ、そうだった。明日は体育があるんだった。

 マラソンは来月からだから……明日は何やるんだろう? あまりキツい競技じゃないといいな。

「今日は夕飯もしっかり食べて、お風呂で身体をマッサージして、たっぷり寝ること。真人と時間を忘れて電話しないようにね」

「き、気をつけます」

 今日は真人と夜、いっぱいお話しようと思っていたけど、この分だと途中で寝ちゃいそうだし……ちょっとだけにしよう。

 私はお姉ちゃんに挨拶をして音楽準備室をあとにし、待っててくれていたちぃちゃんと一緒に下校した。

 その後、家に帰り夕食とお風呂をすませた私はベッドに入り、気がついたら朝の五時だった。

 ちょっと目を瞑っただけなのに……それだけ身体が疲れていたってことなんだ……。

 久しぶりの筋肉痛に苦しみながらスマホを見ると、真人からの着信とメッセージの通知があって、せっかく電話をかけてきてくれたのに申し訳ない気持ちになりながらメッセージを確認すると、【今日は本当にお疲れさま。授業と部活とあって疲れて寝ちゃったかな? しっかり休んで、明日も無理のないペースで頑張ろうね。おやすみ綾奈……大好きだよ】って書かれていた。

「……ありがとう。私も大好きだよ、真人」

 私を労る優しいメッセージに嬉しくなりながら、ベッドから出てジャージに着替え、真人の到着を待った。

「今日も頑張ろう」

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