第439話 うろたえる明奈
走って自分の家まで帰り、真人に言われた通りに柔軟と汗の処理をしたあと、私は朝食を食べていた。
正直まだしんどくて、あまり入らないけど、「朝はちゃんと食べないとダメだよ」って真人も言っていたので、私は少しだけ無理していつもと同じ量の食事を食べるよう決めていた。
「真人君と走ってきてどうだったかしら?」
「疲れたけど楽しかったよ」
キッチンで洗い物をしているお母さんが聞いてきたので、私は正直に感想を口にした。
最初はちゃんと最後まで走れるか不安があったけど、バテバテになりながらだけど公園まで走ることができた。真人にも褒められたし、これなら私も続けられるって確信が持てた。
「よかったわね綾奈。それにしても、真人君があれから毎日走っていたなんて驚いたわ」
真人も言っていたけど、走り始めた初日にここを通ったとき、偶然お父さんとお母さんに会ったんだよね。
「うん。本当にすごいと思うよ」
体を動かすことが好きと明言したことのない真人が、ここにお泊まりに来たとき以外、三学期が始まってから毎日走っていて、今も続けているのは本当に尊敬するし、そんな真人のお嫁さんとして私も誇らしくなっちゃう。
「綾奈のためだものね」
「うん。……えへへ」
真人がこうしてダイエットをしてるのは、自分のため、そして私のためでもあるのを考えると、自然と顔が緩んじゃう。嬉しすぎるよぉ。
私も、自分のため、そして真人のために頑張らなくちゃ!
「あ、そうだ。お母さん」
杏子さんが土曜日に来ることをお母さんに言わないと。真人のことを考えていたから忘れそうになってた。
「どうしたの綾奈?」
「前に話した、真人のいとこのお姉さんの杏子さんなんだけどね」
「あの役者の氷見杏子ちゃんなのよね!? 真人君も水くさいわー。杏子ちゃんといとこなら早く言ってくれればよかったのに」
私ほどではないけど、実はお母さんも杏子さんのファンだったりする。
「うん。それでね、その杏子さんなんだけど、土曜日にうちに来ることになったから」
「え……?」
あ、お母さんが固まっちゃった。
今、リビングには水の流れる音とエアコンの音、そしてテレビから聞こえるアナウンサーさんの声だけが聞こえてくる。
「ほ、本当に来るの? 杏子ちゃんが、うちに!?」
「本当だよお母さん」
これだけ狼狽えているお母さんも珍しいなぁ。普段は落ち着いた、おっとりしたお母さんなのに、やっぱり芸能人が、それも好きな女優さんが来るんだから無理もないけど。
「あ、綾奈! そういうことは早く言いなさい!」
「う、うん。でも、決まったの昨日の夜だし……」
「そ、そうね。私ったらつい取り乱して……と、とにかく、綾奈が学校に行ったら家を掃除しなくちゃ! せっかく杏子ちゃんが来るんだもの……ホコリひとつ残さないようにピッカピカにしてやるわ」
お母さんが燃えている。こんなお母さんを見れるのも本当に珍しい。
それからお母さんは、洗い物をしながら、お掃除の段取りと、お掃除に必要な物を頭の中でリストアップしているのか、掃除用具や有名な掃除用品の名前をぶつぶつ言っていた。
これは、家に帰った時、本当にピカピカになってそう……。
私も杏子さんが来る土曜日までに部屋を掃除しなくっちゃ。
「ごちそうさまー」
私はいつもと同じ量の朝食を食べ終え、食器をシンクのそばに置いた。
昨日まではご飯の量も減らそうと思ったけど、「もしかしたらお昼まで持たないかもだし、運動をする以上、しっかり食べた方がいい」って真人が言っていたので、いつも通り食べることにした。旦那様のアドバイスはちゃんと聞かないとね。
部屋に戻った私は、制服に着替えて、真人がおすすめしてくれたライトノベルを読みながら、登校時間まで過ごした。
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