第435話 明日から一緒にランニングを

「……ダイエットをしたい?」

 明奈さんが持ってきてくれた甘さとカロリー控えめのココアを飲み、対面で座っている綾奈が言ったことを復唱した。

「うん。そうなの」

 綾奈もココアを一口含んで、それを飲み込むまで待ってから、今度は俺が質問をした。

「でも、なんでまた突然? 全然必要なさそうだけど」

「じ、実はね───」

 綾奈はここ数週間でケーキをいっぱい食べてしまって、今日体重を計ったら増えていたこと、今日の朝一緒に学校に行けなかったのは日直ではなく、体重が増えたショックで頭がパニックになったのと、そんな姿を俺に見せたくなかったから、そして昼休みに千佳さんたちに相談したら、千佳さんは俺が三学期に入って早朝にランニングをしているのを教えてくれて、来月からの体育はマラソンもあるから、それで自分も一緒に走りたいことを話してくれた。

 俺は綾奈が喋っているあいだは質問をせず、ただ相槌を打って聞き役に徹していた。

 しかし、まさか千佳さんに言ったその日に綾奈に伝わるとは思ってもみなかったな。

 だけど、体重が増えたって言ってる割には見た目に変化がない。相変わらずめちゃくちゃ可愛い綾奈だ。

 まぁ、数値として実際に出てるみたいだから間違いはないんだろうけどさ。

「あ、あの……真人?」

「え?」

 可愛い声が聞こえたので綾奈の顔を見ると、綾奈は頬を赤くして、自分を抱くように両腕で身体を隠した。

「あまりその、じっと見られると……恥ずかしい」

「あ! ご、ごめん!」

 いくら婚約関係にあるとはいえ、体重が増えたらしい綾奈の身体をじろじろ見るのはさすがに不躾で配慮が足りなかったな。

 俺は本気で謝り、綾奈の頭をいつもより優しく撫でると、綾奈は少しずつ機嫌を直してくれた。

「うん。事情はわかった。もちろん俺も綾奈が一緒に走ってくれるなら楽しくなるんだけど、朝早いけど起きれる?」

「大丈夫。いつもより早く寝たら起きれると思う。アラームもセットするよ」

「なら、俺はだいたい五時半頃にこの家を通過するんだけど、綾奈もその時間くらいに出れるように出来る? 無理なら時間をずらすよ」

「それも大丈夫だよ。真人はいっつも私に合わせてくれてるから、今度は私が真人に合わせるよ」

 綾奈の決意は本当に固いみたいだな。

 えっと、あと伝えなきゃいけないことはっと……。

「ありがとう綾奈。それと、わかってると思うけど外はめちゃくちゃ寒いから、防寒対策はしっかりとね」

「うん。真人はどんな格好で走ってるの?」

「俺? 俺はジャージの下に薄手で温かいシャツと、あとはウインドブレーカーを着て走ってるよ。それから手ぶくろだね」

 普段は綾奈と直接手を繋ぎたいから手ぶくろはしないんだけど、綾奈もいないし風が強かったら寒さで痛くなるから手ぶくろはしている。

「なるほど……」

 綾奈は俺が言ったことをスマホのメモアプリで入力しているみたいだ。真剣に俺の話に耳を傾ける綾奈も可愛い。

「最初はゆっくり走って、徐々に体力をつけていこう。はじめからとばしてしまうとすぐにバテちゃうからね。焦らずにね」

「うん。足を引っ張っちゃうかもだけど、よろしくね」

「そんなこと気にしないの。それに、そんなお嫁さんを助けるのも俺の役目だからね」

「えへへ。ありがとう真人」

 綾奈は笑顔で俺の方へ右手を伸ばしてきたので、俺はその手を優しく握った。

 綾奈の手を握った直後、ランニング以外のダイエット法を思いついた。

「どういたしまして。そうだ、ダイエットなら、走るのとは別にストレッチをするのもいいかもね」

「ストレッチ?」

 よくSNSなんかでストレッチをしている人の動画が流れてきたりしてるから、ただ走るだけじゃなくストレッチで身体を柔らかくするのも効果的だと思った。

「うん。これは検索すれば動画がいっぱいヒットすると思うからそれを見てもいいし、俳優業をしていた杏子姉ぇなんかももしかしたらやってたかもしれないから、杏子姉ぇに聞いてみるのもいいかもね」

 杏子姉ぇはあのスタイルを維持するために、きっと並々ならぬ努力をしてきたはずだ。だとすれば、知識は俺たちの中で一番だろう。杏子姉ぇも綾奈の頼みなら喜んで教えてくれるだろうし。

「わかった。夜になったら杏子さんに聞いてみるね。ありがとう真人」

「どういたしまして。……ところで、綾奈?」

 綾奈の相談も一段落したところで、俺はそろそろある事が限界に近かった。

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