第431話 はじめての嘘

 私は高崎高校の廊下を考え事をしながら歩いていた。

 ど、どうしよう……何の気なしに体重計に乗ったのに、まさかあんなことになってるなんて。

 真人に会いたかったけど、それでも今の私を見られたくないって気持ちが勝っちゃって、つい日直だからって嘘をついて早く来ちゃった。

 真人に、はじめて嘘、ついちゃった……。

 多分、真人なら私が今日みたいな嘘をついても、そして今の状態の私を見ても気にした素振りを見せずに、いつもの優しくてかっこいい笑顔を見せてくれるってわかってるんだけど、うぅ~……。

 私は教室に着いて自分の席に座り鞄から教科書を机の中に入れる。

 今日は早く来たから、いつも私たちより早く来ている乃愛ちゃんとせとかちゃんはいない。

「みんなになんて言おう……」

 ちぃちゃんにも【今日は早く学校に行くからまた教室でね】ってだけメッセージを送って、理由も話してないからきっと不思議に思ってるよね。

 ……やっぱり、正直に打ち明けた方がいい、よね。

「あれ? 綾奈ちゃん早いね。おはよー」

「おはよう西蓮寺さん。珍しい……」

 私が自分の席で悩んでいると、廊下の方から声が聞こえてきたので、そちらを振り向くと、乃愛ちゃんとせとかちゃんが教室に入ってきた。

「お、おはよう。乃愛ちゃん、せとかちゃん」

 二人は自分の席に行くことなく、まっすぐ私の席にやってきた。普段なら嬉しいんだけど、今日は早く来た理由を聞かれそうですごくドキドキする。

「それにしても、どしたの綾奈ちゃん。私たちより早く来るなんて……」

「宮原さんがいない。一人で来たの?」

「う、うん」

「綾奈ちゃん日直……じゃないね」

 乃愛ちゃんは黒板に書かれた日直の人の名前を確認しながら言った。

『日直』というワードが出てきて、私の胸がチクリと痛んだ。

「あ、わかったよ!」

「乃愛、うるさい」

 乃愛ちゃんが突然大きな声を出したから私がびっくりしていると、せとかちゃんが乃愛ちゃんの頭に手刀を入れていた。さすが親友同士だなぁ。

「いた! いいじゃんせとか! 綾奈ちゃんが早く来た理由がわかったんだから」

「はいはい。それで? 乃愛の推理は?」

「ずばり! 綾奈ちゃんは中筋君とイチャイチャしていて時間を間違えたんだよ!」

「それならもっと遅くに来るはず」

「あ、そっか……あはは」

 乃愛ちゃんの推理はせとかちゃんによってあっさり論破されてしまった。二人のやり取りが面白くてついくすくすと笑ってしまう。

 二人はお友達だし、ちぃちゃんが来たら、三人に相談してみようかな……?


「はよー」

 それからしばらく乃愛ちゃんとせとかちゃんの二人とお話をしていると、ちぃちゃんがやってきた。今日は突然先に来ちゃったからちょっと気まずい。

「千佳ちゃんおはよう!」

「おはよう。宮原さん」

「お、おはよう……ちぃちゃん」

 気まずくても挨拶をしないのはダメだから、私はちょっとぎこちなく挨拶をした。

 すると、ちぃちゃんも二人と一緒で、自分の席に行くよりも先に私の席にやって来た。

「綾奈。あんた今日はどうしたのさ? 急に一人で行くなんてさ。真人がめちゃくちゃ寂しがってたよ」

「ほ、本当!? ちぃちゃん?」

「ほんとだよ。待ち合わせ場所に来た時の顔といったらめちゃくちゃ辛気臭かったね」

「中筋君に会ってないんだ! え? なんで?」

 うぅ……真人に寂しい思いをさせてしまって、そしてみんなからのこの「ワケを話せ」って視線がチクチクと突き刺さる。全部自分が悪いのはわかってるけど……。

「えっと、みんなに相談したいことがあるんだけど、お昼休み、屋上で食べない?」

「屋上? え? 寒くない?」

「でも、今日は季節外れの温かさってニュースで言ってたし、風も強くないから大丈夫だと思う」

「……どんな内容かはそれなりに予想がつくけど、とにかく昼休みに聞かせてもらうよ。あと綾奈は真人に今朝のことをちゃんと謝りなよ」

「う、うん。ごめんねちぃちゃん」

「あたしはもう気にしてないから。その分真人に謝って、ちゃんと慰めてあげな。あんたにしか出来ないことなんだからね」

「わかった。ありがとうちぃちゃん」

 ちょうど予鈴が鳴り、みんなは自分の席に帰っていった。

 私は本鈴前に、真人に今朝のことの謝罪のメッセージを送ったら、真人からすぐに【寂しくないって言ったら嘘になるけど、綾奈にも都合があるもんな。だからまた今度、二人きりの時間を作ろうね】って返信が来た。

 旦那様の優しさに、嬉しくなるのと同時に罪悪感がすごく出てしまった。

 私は内心、そしてメッセージで真人に謝ると、スマホをスカートのポケットにしまい、一限目の準備をした。

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