第7章 綾奈のダイエット

第429話 目に入ったら乗ってしまうもの

「ふんふふーん♪」

 真人が私の家にお泊まりにきた翌週の水曜日の朝。

 私は鼻歌交じりに洗面台へと移動していた。

 今日は週の真ん中の水曜日、ということは、今日は部活がお休み。ということは~。

「きょうは~まさととで~ぇ~と~♪」

 授業が終わったら真人と一緒にいられる。そのことを考えると自然と心が弾んで歌を歌ってしまう。

 先週末はほとんどずっと真人と一緒にいられて、すごく幸せだったんだけど、昨日と一昨日は朝の登校の時間だけしかいられなかった。

 学校が違うから仕方ないんだけど、やっぱり寂しかった。

 洗面台に立ち、正面の鏡を見ながら、私は持っていたヘアバンドを付けようとして、右手首にしているピンクのシュシュを見て自然と笑みがこぼれる。

 これは先週の土曜日……私の誕生日に真人がプレゼントしてくれたシュシュ。どこにでもありそうなシュシュだけど、私にとったら真人がプレゼントしてくれたとっても大事なシュシュだ。

 このシュシュも指輪同様、お風呂と寝る前以外は肌身離さず身につけるようにしている。昨日はいつの間にか寝ちゃってて、シュシュを手首につけたままだった。

 あ、でも顔を洗っていてシュシュが濡れちゃったらいけないから、外した方がいいよね。

 私は手首からシュシュを取り、洗面台の少し離れたところに置いた。

このシュシュで髪を束ねたらいいのにって思われそうだけど、今はまだ目に見えるところにつけていたい。目で見て幸せを感じたい。

だからこれで髪を束ねるのはもう少し先になりそう。

 私は泡立てネットを手に取り、そこに洗顔フォームを付け、しっかりと泡立てる。キメ細やかな泡を作って、しっかりと顔を洗って、真人に「可愛い」って言ってもらうんだ~。

 それにしても、先週末の誕生日デートは本当に楽しかったな。

 サプライズの連続で、何度驚かされたかわからないけど、それ以上に私への愛情が伝わってきて本当に嬉しかった。

 中でも猫カフェ・ライチに行けたのと、真人の手作りケーキが強く印象に残っている。

 真人が私のために、ライチの入店権利をかけた抽選に応募してくれていてそれが当選し、真人と一緒にきららちゃんをはじめとしたたくさんの猫ちゃんと触れ合えることが出来て夢のような時間だった。

 そしてあのガトーショコラもとっても美味しかった。

 まさか真人が私みたいに翔太お義兄さんにケーキの作り方を教わっていたなんて思いもしなかった。

 真人はあまり自信がなさそうだったけど、すごく、すごーく美味しかった。

 旦那様が作ってくれたからかもしれないけど、今まで食べたガトーショコラの中で一番美味しいって思った。

 他にもいっぱい思い出に残る出来事がいっぱいで、私の十六回目の誕生日は、生涯忘れることはないくらい最高のものになった。

「んふふ~♡」

 私は顔を洗いながら、真人の深い愛情を思い出しながら自然と口角が上がっていた。

 早く真人に会いたいな~。登校時間が待ちきれないよぉ。

 そうだ。以前、真人が私に会いたくて早くにうちに迎えに来てくれたことがあったけど、私も真人の家に行っちゃおうかな? そうしたら真人と一緒にいられる時間もいっぱい確保できるし、甘えることだって出来る。

 なーんて……さすがに約束もしてないのにこんな早朝から家に行くのは非常識だから行かないけどね。

 真人は喜んでくれるだろうし、良子さんもいつでも来ていいって言ってくれたけど、さすがに行けないよ。

 私は真人に会えるのがもう少しだけあとになるのを少しだけ残念に思いながら、パシャパシャと顔についた泡を洗い流した。

「……うん。いい感じ」

 真人を好きになってからは、より入念にお肌のケアに磨きをかけてきたからね。今日も真人は「可愛い」って言ってくれるかな。

「えへへ~♡」

 私は脳内で真人に「可愛い」を言われてつい顔が緩んでしまった。

 それから視線を床に落として、ふと近くに置かれていたソレ……体重計を見つけた。

「そういえば、真人とお付き合いをしてからは乗ってなかったなぁ」

 お付き合いをする前は、真人に少しでも振り向いてもらいたくて、お肌のケア以外にも、体型維持にも気をつけていた。

 私は元々少食だから、体重の変化は全然気にする必要はなかったんだけど、やっぱり数値で見るまではドキドキしていた。

「久しぶりに乗ってみようかなぁ……」

 今もし、気にすることもないと思ったけど、久しぶりに数値で見て安心しておこうかな。

 私はゆっくりと体重計に乗り───

「………………へ?」

 そして頭が真っ白になった。

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