第426話 キスマーク隠し
翌朝、綾奈と千佳さんとの待ち合わせ場所のT地路にやって来た。今日は俺の方が早かったみたいで、二人はまだ到着していない。
一分ほど待っていると、綾奈と千佳さんがやって来た。
「真人、おはよう!」
「おっと。おはよう綾奈」
俺を見つけると走ってきた綾奈をそのまま受け止める。はい、朝っぱらからハグをしてます。
「そんなに急がなくても真人は逃げないのにねぇ……おはよう真人」
「おはよう千佳さん」
ゆっくりペースで歩いてきた千佳さんとも挨拶を交わす。
「あれ? 珍しいねパーカーを着込んでるなんて」
「うん。ちょっと寒いかなって」
実際に寒いんだけど、もちろん本当の理由はキスマークを隠すためだ。
千佳さんなら、まだ『やれやれ』で済みそうなんだけど、一哉や茜や杏子姉ぇに見つかると絶対に厄介なことになるからな。
「あぅ~……」
綾奈さん、ここで赤くならないで。千佳さん察しがいいんだからバレるかもしれないよ!
「ふぅん……。ま、そういうことにしといてあげるよ。ほら、早く行こうよ」
そう言って千佳さんは一人で歩きはじめてしまった。
一瞬ニヤリとしていたから、もしかしたらバレたかもしれないな。
「綾奈。俺たちも行こうよ」
「う、うん。真人」
俺はいまだに顔の赤い綾奈の手を取り、千佳さんの後を追った。
それからはパーカーの話題が一切出なかったから、やっぱりバレたというのは気のせいだったかな?
高崎高校の最寄り駅で、電車内で真人といつもの左手同士を合わせる儀式をして、私とちぃちゃんは電車を降りて駅の構内へと入った。
「綾奈、真人にキスマークでもつけたん?」
「ふえぇっ!?」
無言で歩いていたのに、突然そんなことを聞かれて驚いてしまった。
そして私のリアクションが悪手だったことに気づいた時には既に遅くて、ちぃちゃんは「やっぱりねぇ」と言いながら私を見てニヤニヤしていた。
「ど、どうして……!?」
「いや~、中学の頃から寒いと言いながらもなんだかんだ制服をちゃんと着ていた真人がいきなりパーカーを着込んでるから変だな~って思ってたんだけど、まさか本当につけてたとは……」
「え? じ、じゃあ、確証はなかったからカマをかけたってこと!?」
ちぃちゃんは「そういうこと」って言ってニヤニヤな笑顔を深めた。
ということは、私が普通に「違うよ」や、適当な理由を言ってたら完全にバレることはなかったんだ。あぅ~……。
「あたしでも気づいたんだ。真人の親友の山根も絶対に気づくだろうね」
そ、そうだ。山根君もすごく察しがいいから、私より真人を知り尽くしている山根君なら真人がパーカーを着ているのを見て不思議に思わないなんてありえない。
で、でも、山根君は確かに真人をイジる時もあるけど、本当に嫌なことはしない人だから、きっと清水君や香織ちゃんまでで止めてくれるはず。
「ちなみにどこに付けたん?」
「えっと……ここに」
私は真人にキスマークを付けた箇所……自分の首元を手で押さえた。
「あ~なら見える危険もあるね……」
「うん……」
「今度からは見えないところに付けてあげなよ」
「気をつけるよ」
それから、ちぃちゃんはどうしてキスマークを付けたのかを聞いてきたので、ドゥー・ボヌールで真人の手作りガトーショコラのことを話したら、ちぃちゃんは驚いていた。
そしてマフラーで口元を隠し、頬を染めて「そんなことされたら、あたしも……するかもしれない」って言っていた。ちぃちゃん……かわいい。
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