第422話 修斗のプレゼント

「綾奈先輩。実は俺から誕生日プレゼントがあるんです!」

「え?」

 ガトーショコラを食べ終え、他の部員は解散したあと、俺と綾奈と修斗はゆっくりと校門へ向けて歩いていると、修斗がそう切り出した。

 先週、ショッピングモールで会った時に、綾奈に誕生日プレゼントを贈っていいかを聞かれ、俺がそれをすぐに了承したのだが、どうやらここで渡すようだ。

「その、真人おにーさんから昨日が綾奈先輩の誕生日だったことを聞いて、それでプレゼントを用意したんです。受け取って、くれますか?」

「横水君……もちろんだよ。ありがとう!」

「っ! い、いえ、そんな……」

 修斗は綾奈の笑顔を見て頬を赤くしている。

 綾奈を狙わなくなったとはいえ、最近まで好意を寄せていた人の笑顔を見ると、やっぱり照れてしまうよな。俺も綾奈のその笑顔を見たけど、やっぱりドキッとしたし。

「ちょっと待ってくださいね。えーっと、確かこの辺に……」

 修斗は肩にかけていた有名スポーツメーカーのロゴが入ったエナメルバッグのファスナーを開け、そこに手を入れてゴソゴソとプレゼントを探し始めた。

「あった!」

 十秒ほどバッグの中を捜索し、どうやら修斗はお目当てのものを見つけたようだ。

 バッグから抜いた手には、ピンク色の水玉模様が描かれた小さい紙袋を持っていた。

 あれが修斗が選んだ誕生日プレゼントか……。随分小さいみたいだけど、一体何を選んだんだろう?

「綾奈先輩、これが俺からの誕生日プレゼントです」

 修斗が手に持っているプレゼントが入った小さい紙袋を、綾奈は両手で丁寧に受け取った。

「ありがとう。……開けてもいいかな?」

「もちろんです」

 修斗から開封していい許可を得た綾奈は、止められていたテープをゆっくり丁寧に剥がし、まずは袋の口からプレゼントを覗き込んだ。

「かわいい……」

 プレゼントを見た綾奈は一言、そう呟いた。一体何が入っていたんだろう?

 綾奈は右手の人差し指と親指を袋の中に入れ、プレゼントを取り出した。

 すると、中から出てきたのは猫のキーホルダーだった。

「本当だ。可愛いキーホルダーだね」

「うん。ありがとう横水君。帰ったら学校のカバンにつけるね」

「喜んでもらえて良かったです。お年玉を正月でほとんど使いきったからキーホルダーくらいしか買えなくて、綾奈先輩が喜んでくれるか心配だったんです」

 お年玉、使い切っていたのか。おそらくゲームソフトを買ったり友達と遊んだりして使ったんだろうな。俺も数年前はそれだった。

「ところで修斗。綾奈が猫好きってよく知ってたね。誰かから聞いたのか?」

 俺も綾奈も修斗に伝えてはいない。綾奈は猫っぽいから、そのイメージのまま猫のキーホルダーを選んだのかな?

「じ、実は、おにーさんの妹に聞いたんですよ」

「美奈に?」

 情報源は美奈だったのか。でも、美奈が修斗に教えるってことは、あれから二人は良好なクラスメイトの関係を続けているんだな。

「はい。綾奈先輩は何が好きかわからなかったから……すげー嫌な顔されましたけど、理由を話したら教えてくれました」

「美奈とはまだ仲が悪いのか?」

「悪いというか、俺がいきなり綾奈先輩の好きなものを聞いたから、俺がまだ綾奈先輩を諦めてないものだと思ってしまったといいますか……仲自体は普通ですよ」

「美奈、綾奈が大好きだからな」

 始業式の日も、うちの前で何やら言い合っていたけど、どうやら仲が悪くはないみたいで安心した。初詣の件で、俺が口を出したことは間違ってはいなかった。

 俺が美奈と修斗の人間関係を安堵していると、修斗はまたエナメルバッグに手を突っ込んで何かを探し始めた。

「実は、綾奈先輩の分だけでなく、真人おにーさんのプレゼントも用意してあるんですよ」

「……え?」

 まさか俺のプレゼントまで用意してくれているとは思ってなかったので、返事をするのに少しだけ間を開けてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る