第421話 驚く後輩と、平常運転の夫婦

「ど、どうしたんですか真人おにーさん? や、やっぱり食べるのはダメだったですか?」

「「ええ~!」」

 他のサッカー部員からめっちゃ不満の声が聞こえてくる。

 いや、食う直前で「やっぱりダメ」って言うとか、そんなの俺極悪人じゃん。

「い、いや違うんだ。というかそれ、綾奈が作ったものじゃなくて、俺が作ったものなんだよ」

「「……………………え?」」

 長い沈黙だったなおい。

「え? マジですか!? 本当にこれ、真人おにーさんが!?」

 今度はざわざわしはじめたサッカー部の部室。そりゃあ信じられないし、綾奈の手作りだと思ってたから残念だわな。

「うん。綾奈のバースデーケーキ、ガトーショコラを作ってな。それでみんなに差し入れ用のも作ろうって思って、ドゥー・ボヌールの店長に教わって作ったんだよ」

「ま、マジですか……というか、あのドゥー・ボヌールの店長と知り合いなんですか!?」

 そっか。みんなは翔太さんの奥さんが綾奈のお姉さんなのを知らないから、俺たちとドゥー・ボヌールにはなんの繋がりもないって思ってるのか。

 綾奈と麻里姉ぇが姉妹なのは、知らない人には伏せられてるし、ここは言わないほうがいいな。

「うん。翔太さん……ドゥー・ボヌールの店長にも一応合格を貰ってるから食べられるものだよ」

「私も昨日、真人が作ってくれたケーキを食べたけど、本当に美味しかったよ。私が保証する」

 綾奈がアシストしてくれた。これでみんなも少しは安心するだろう。

「ありがとう綾奈」

 俺はそんなアシストしてくれた綾奈の頭を撫でた。

「えへへ~」

 そして撫でられている綾奈は、ふにゃっとした笑みを見せてくれる。何度やったかわからないやり取りだけど、毎回ドキッとするし、綾奈の笑顔を見れて幸せな気分になる。

「ま、真人おにーさん、綾奈先輩。みんなポカンとしてますから……」

「「あ……」」

 またやってしまった……。みんなを見ると、修斗以外はフリーズしていたり、羨ましがっていたりしていた。

 修斗は苦笑いをしている。もしかしたら俺と綾奈のやり取りに慣れてきたのかもしれない。

「あ、綾奈のじゃなくて申し訳ないけど、良かったらみんな食べてくれ」

「はい! いただきます真人おにーさん!」

 俺が食べるのを勧めると、修斗が一番に口に入れた。

 味は綾奈が保証してくれているけど、果たして修斗やみんなの口に合うのかが心配で、ちゃんとした感想を貰うまではドキドキする。

 ゆっくりと咀嚼し、味をしっかり確かめてからごくんと飲み込んだ。

「うまっ! 美味しいです真人おにーさん!」

「良かったぁ……」

「でしょ?」

 修斗から「美味しい」をいただき、ほっと胸をなでおろした。

 綾奈はまるで自分のことのように喜んでいた。

 他の部員たちも続々とガトーショコラを口に運び、みんな美味しいと言ってくれた。

 サプライズで持ってきた差し入れは、けっこう持ってきたはずなのにあっという間になくなった。めっちゃ嬉しかったのだが、食べ盛りの運動部員の胃袋のデカさに、俺も綾奈も驚いていた。


 そうだ。気になっていたことを忘れないうちに聞いておかないと。

「そういえば、修斗がゴール決めた時、みんなめっちゃ修斗をバシバシ叩いてたけど、あれが普通なのか?」

「いや、あれは───」

「こいつが西蓮寺先輩と手を合わせていたのを見て、羨ましくてつい……」

「な、なるほど……」

 綾奈って本当に人気が凄いもんな。そうなんじゃないかとは思っていたけど、まさか予想が当たるとは……。

 そんな人が俺のお嫁さんって……改めて思うけど凄く幸せなことだな。

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