第419話 サッカー部の部室へ

 俺と綾奈はサッカー部の部室にやってきた。

 中からガヤガヤと部員の声が聞こえてくる。

「何気にこの部室が立ち並ぶ場所に来たのって初めてだよな」

「うん。文化部の私たちには縁がない場所だったからね」

 俺も綾奈も、中学の時も合唱部所属(俺は中学でも臨時部員)だったので、運動部の部室なんてマジで用がなかったから在学中はこの場所に足を踏み入れたことはなかった。それなのに、卒業して一年が経とうとしている今になって来ることになるとは……。

「とりあえず、訪ねてみようか」

「うん」

 部室の前で立ち話をしていてもなにも始まらないので、俺はサッカー部の部室をノックした。

 ノックをすると、中の部員の話し声がピタッと止んだ。……と思ったら、かすかにだけどため息のような声が聞こえた。え? もしかしてここに来たらまずかったのか? でも試合前に修斗に部室に来てほしいって言われたしなぁ。

 あ、なんか部室から一人の足音が聞こえてきた。でも、その足音は普通に歩いているというよりはわざと足音を大きくしているような気がする。

 次の瞬間、部室の扉がバン! と開いた。俺と綾奈は驚いて身体がビクッと跳ねた。

「あのさぁ、部室に押しかけるのはダメ、出待ちならここじゃなくて校門でって…………あれ?」

 出待ち? 出待ちってあれだよな……ライブやイベント終わりの芸能人やミュージシャンを建物の裏口から出てくるのを待ってる人のことだよな? え? 出待ちも驚いたけど、ここに押しかける人もいるってのにも驚いた。

 扉を開けた部員は、最初は強気に出ていたけど、俺を見ると目をぱちくりさせていた。どうやら勘違いってわかってくれたみたいだ。

「えっと……なにか用ですか?」

「と、突然ごめん。俺たち、修斗に用があって───」

「お、おにーさん! 綾奈先輩!」

 中にいた修斗が俺たちに気付き、部室のドアノブを持ったまま俺たちを見て固まっていた部員を扉から引き剥がした。

「え!? 綾奈先輩!?」

「マジ? 西蓮寺先輩が来てんの!?」

「ちょ、お前ら、俺にも綾奈先輩を見せろ!」

「うわ! マジで可愛い!」

「やべぇ……学校一の美少女と呼ばれた先輩を間近で見れるなんて」

「俺、サッカー部に入ってよかった」

「てか、マジで芸能人より可愛いんじゃね!?」

 修斗が綾奈の名前を呼んだのが引き金になり、中から大勢の部員が綾奈を一目見ようと顔を覗かせて、口々に感想を言っている。これじゃあどっちが出待ちなのかわからないな。

 俺は綾奈が世界一可愛いと思ってるけど、俺の身近にいる芸能人は身内贔屓関係なく可愛いって思う。彼らに杏子姉ぇを会わせたらどんなリアクションするのかちょっと見てみたいな。

「あぅ~……」

 サッカー部員の二年生に大絶賛された綾奈は、照れてしまって俺の背中に隠れてしまった。

 さすがにこれだけ言われたら照れ……というより恥ずかしいよな。

「っとそうだ。修斗、みんな。勝利おめでとう!」

「お、おめでとう……」

 いい試合を見せてもらったんだ。ちゃんとおめでとうって言わないといけないと思ったから言った。

 そんな俺に続いて、俺の背中から顔だけ出した綾奈がおずおずと言った。可愛い。

「ありがとうございます! おにーさん、綾奈先輩!」

「「ありがとうございます!」」

 修斗に続き、他の部員もお礼を言ってきたんだけど、ほとんどが綾奈を見ながら言っているのを見て苦笑いしてしまった。

「あと、これ。良かったらみんなで食べてくれ」

 俺は持っていた紙袋を修斗に手渡した。

「これって、試合前から持ってたやつですよね? わざわざありがとうございます真人おにーさん! ところでこれはなんですか?」

「ガトーショコラのクッキー。手作りだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る