第418話 サッカー部の良い変化
「ところで、お前たちはどうやって今日の練習試合のことを知ったんだ? 卒業して今日の情報を得る機会なんてないはずだが……」
先生の疑問はごもっともだ。
たとえここの学生であったとしても、サッカー部と知り合いでもなければ今日ここで練習試合があるなんてわからない。ましてや観に来るなんて思うはずもない。
「それはですね。修斗……横水君に誘われたんですよ」
「横水に? お前たち、あいつと面識あったのか? 確かに中筋の妹が横水と同じクラスだが、それでも知り合うことはないだろう。あいつら、あまり仲良くないし」
俺が正直に言うと、先生は眉を寄せて首を傾げた。
どうやら美奈と修斗は以前から仲が悪かったようだ。というか、それを知ってるって……まさか。
「え? ……もしかして先生って、美奈の担任なんですか?」
「ああ。なんだ、妹から聞いてなかったのか?」
「ん~……聞いてないですね」
俺の顎に手を当て記憶を掘り起こしてみたけど、俺が高校に入ってから美奈と先生の話をした記憶がない。教えてくれりゃあよかったのに。
「……となると、やっぱり以前から中筋は横水と知り合いだったのか?」
「えっと、今年の初詣で色々あって……」
綾奈が迷子の男の子……駿輔君がお兄さんを探してほしいと綾奈を指名した時に、まさかあんな修羅場になるとは思わなかったからなぁ。
俺と同じように初詣の修斗との一件を思い出しているのか、横にいる綾奈も「あはは……」と苦笑いを浮かべている。
「初詣? …………もしかして、お前が?」
「え?」
俺の話に先生はなぜか考え込んで、少ししてなにか思い当たったような顔で俺を見て言った。何の話だ?
「いや……実は、横水は確かにうちの部のエースなんだが、少々傲慢な部分があってな……あまり他の部員とも連携を取ろうとせず、無理な局面でも一人でボールを持って切り込んでいたんだよ。自分の実力が高いのを知っているからか、部活もそこまで真面目に取り組んではなかったし、パスを出すのは仲のいいやつがほとんどだったしな。正直、部の空気はお世辞にもいいとは言えなかった」
確かに、初対面の修斗は先生が言っていたように傲慢なやつだと思ったし、美奈から話を聞いてプライドが高い……自信家みたいなやつだと思った。だけど……。
「そうなんですか? でも、さっきの試合では普通にパス出してましたよね?」
一人で切り込む場面なんてほとんど見られなかったし、シュートを決めたときもチームメイトが祝福してくれたし……良好だと思ったんだけどな。
「はい。チームの連携も取れていたと思いました」
「ああ……二学期までは俺が言った通りだったんだが、冬休み……年明けの部活から急に態度を変えはじめてな。これまでの態度を俺や他の部員に謝罪し、部活もひたむきに取り組むようになり、仲間との連携を意識したプレーをするようになって、チームの空気も改善していったんだ」
「そ、そうなんですか?」
先生はコクっと頷き続けた。
「それで、なにか心境の変化があったんだと思った俺は横水に聞いたんだよ。そしたらあいつは『初詣で心からかっけぇと思える人に出会った。だから俺もその人みたいになりたい』って言ったんだよ」
「っ!」
あいつ……だから俺を「おにーさん」って呼ぶようになったのか。
「その反応……やっぱりお前なんだな。横水を変えてくれたのは」
「その、自分で肯定するのはちょっと恥ずかしいですけど……そう、ですね。修斗を変えたのは俺、だと思います」
こういう話を自分で肯定しちゃうと自慢してると思われそうだし鼻につきそうだけど、実際俺……だと思うから否定できない。
俺が照れていると、綾奈が俺の腕に抱きついてきた。
「あ、綾奈!?」
「先生、真人には人を変える力があるんです。横水君の他にも真人と友達になって変わった人もいるんですから」
綾奈がまるで自分のことのように嬉しそうに話している。
『俺と友達になって変わった人』って、やっぱり健太郎のことかな?
綾奈はなおも続ける。
「真人とお友達になって、お付き合いして、婚約もして……その間に真人の親友の山根君をはじめ、いっぱいお友達ができたんです。みんなの中心にはいつも真人がいる……真人は、私の自慢の旦那様なんです」
「あ、綾奈! 褒めすぎだから……!」
「真人かわいい! だって本当のことだも~ん」
綾奈は俺の腕に抱きついている力を強めた。
嬉しいけど、なにも先生の前でやらなくても……そろそろ止めないと先生も反応に困るだろうし、なんならさっきのキスマークみたいにイジってくるかもしれないし、イチャつくなら二人きりで思いっきりイチャつきたいし……。
だけど、先生からはなにも言ってこず、不思議に思った俺は先生の顔を見た。
すると、先生は俺を見て微笑んでいた。え? なになに? なんでそんな顔で俺を見てるんだ?
「中筋。横水を変えてくれたこと、心から感謝するよ。ありがとう」
「「え?」」
先生が突然俺に感謝を述べ、俺にくっ付いていた綾奈も俺同様固まっていた。
「お前のおかげで、サッカー部はさらに強くなるだろう。夏にある総体も、いい結果を残せるかもしれない」
「あ……」
修斗が変わったことにより、今のサッカー部もこれからさらにチームワークが強化され、確かな絆も生まれ、文字通りサッカー部は生まれ変わっていく。
ここ数年は大会でもあまりいい成績を残せなかったと言われていたが、もしかしたら総体では県だけじゃなくて全国も目指せたり?
「その……応援してます。頑張ってください」
「ああ! 西蓮寺、中筋を離すなよ?」
「もちろんです。絶対離れませんから」
その後、俺たちは職員室に行くという先生に別れを告げて、サッカー部の部室に向けて移動した。
その間も綾奈は俺の腕から離れることはなかった。
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