第417話 恩師との再会
練習試合が終わり、俺と綾奈はサッカー部の部室に移動していると、その途中で偶然一人で歩いていたジャージ姿の先生を見つけた。
この先生は当時の俺とあまり変わらない体型をしていたんだが。相変わらずふくよかなお腹をしていた。
「先生ー!」
挨拶しようと思っていたので、俺たちはかけ足で先生の元へと向かった。
「ん? おお~西蓮寺じゃないか! 卒業して以来だな」
「はい! お久しぶりです」
……あれ? 俺には何もないのかな?
「今日は彼氏と一緒に試合を見に来たのか?」
「は、はい。そうですけど……」
俺には何も言ってこない先生を見て綾奈もちょっと困惑している。え? まさか先生……。
「そっかそっか。ところで君は誰だ? ここの卒業生ではないみたいだが……」
先生のその一言で俺はずっこけそうになった。
マジか……いくら当時から目立たなかったし体型が変わったとはいえ、一年間受け持った生徒の顔を覚えてないとは……。
「せ、先生……そりゃないですよ」
「え?」
「俺も昨年度は先生のクラスにいたんですから」
「ちょっと待て……本当に?」
先生は冗談で言っているわけではなさそうだ。痩せたけど顔は変わってないのに……俺ってそんなに影が薄かったのかな?
「先生、彼は中筋真人君ですよ」
一向に思い出してくれない先生に、綾奈は俺の正体を明かした。……いや、隠してたわけではないんだけどさ。
「…………え?」
先生は綾奈から教えられた答えを聞いて、五秒くらい沈黙した後にそれだけこぼした。
本気でわかってなかったみたいでちょっと悲しくなったけど、それだけ当時から見た目に変化があったと、ポジティブに考えよう。
「お、お前、中筋なのか!?」
「そうですよ」
「す、すまん! 体型が一年前とは全然違っていたから気づかなかった。本当にすまない」
「いいですよ。元担任でさえ見抜けないくらい変わったって思えば嬉しいですからね」
同学年で別のクラス、そしてほとんど接点のなかった中村や、学年が違う修斗が初見でわからなかったのは仕方ないけど、元担任で去年度一年ほぼ毎日顔を合わせていた先生がわからなかったってことはマジで変わったって実感出来るな。
「それにしても、まさかお前たちが付き合っていたとはな」
「あはは。まぁ、在学中は俺たち、全然喋ってなかったもんね」
「うん」
「ということは、付き合ったのは高校に入ってからか?」
「そうですね。三ヶ月になります」
改めて考えると、相当内容の濃い三ヶ月だったな……。
「ん? だがお前たちは別々の高校に進学したはず……」
「実は千佳さん……宮原さんが色々動いてくれまして───」
俺は先生にかいつまんで説明した。
二学期の始業式で千佳さんが俺をファミレスに連れて行ってなかったら、もしかしたら俺たちは付き合ってなかったかもしれない……だから千佳さんには感謝しかないよ。
「なるほどなぁ……で、中筋の首にそんなものをつけてしまうほど西蓮寺は中筋に惚れていると」
先生が出来ればスルーしてほしかったことを言ってきたから、俺は意味はないと頭では理解しつつも手でキスマークを隠した。先生の目線が俺の首筋にチラチラと動いていたから気にはなっていたんだろうな。
「そ、そうですけど……あぅ~……」
先生にまで言われてしまい、綾奈の顔が真っ赤に染まった。やっぱり可愛いなぁ。
「あっはっは! 仲良くて何よりだ。中筋、西蓮寺を大事にしろよ」
「もちろんですよ。この指輪に誓って、一生大切にしますよ」
「指輪?」
俺は先生に左手の指輪を見せ、綾奈もまだ恥ずかしさが残っている表情のまま、俺と同様に自分がしている指輪をおずおずと見せた。
「……あっはっは! まさか結婚まで約束してるとはな。俺が言うまでもなかったか。二人とも、仲良くな」
「「はい!」」
俺と綾奈は笑顔で返事をした。
しかし、先生も相変わらず豪快に笑うな。まるでゲーセンの店長の磯浦さんみたいだ。
やっぱり身体が大きい人は豪快に笑うのだろうか?
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