第416話 試合の行方

 後半戦が始まって十五分が経過。未だに両校得点が入らない膠着状態だが、うちの中学のコーナーキックから試合が再開。なんとかこのチャンスをものにしてゴールを決めてほしい。

 蹴るのはショッピングモールで、俺に綾奈のプレゼントを聞いてきた彼だ。ゴール前には修斗を含めた五人がいる。

「それにしても、相手の学校は修斗をマークしているみたいだな」

「うん。横水君、一番活躍してたもんね」

「あまり時間がないし、もしゴールしたら決勝点になるかもしれないから、めちゃくちゃ重要な局面だから、エースの修斗の動きには注意しないとだからね」

 実際、このコーナーキック前のプレーも、修斗のシュート……なんかシャレみたいだが、とにかくシュートを打って、相手キーパーがボールを弾いてラインを割ったから、要注意なのもわかる。

 今も修斗の前にふたりいる状態だ。身長も同じくらいの選手だから、ヘディングもしにくいかもしれない。

 綾奈も真剣に試合を見ていている。

 コーナーキックが放たれ、ボールが宙を舞う。

 ペナルティエリアにいる修斗から少しズレたところに落ちるみたいだ。

 ボールの落下地点にいたうちの中学の他の選手がヘディングシュートを放つが、これを相手キーパーがパンチング。

 だけどまだボールはペナルティエリア内だ。まだこちらの先制点チャンスは残っている。

 敵味方入り乱れてボールの奪い合いが繰り広げられている。相手チームは当然ながら必死に守っているな。

 あれ? 修斗はボールの奪い合いに参加してない。混戦状態になっている場所から少し離れたところで見ている。なんで参加しないんだ?

 あ、でもさすがにあれだけ選手が密集していたら入れないか。

「あぁ~……」

 綾奈が残念そうな声を上げた。

 それもそのはず、相手のディフェンダーがボールをクリアしたからだ。修斗が加わっていれば結果は違っていたかもしれないのに……。

 クリアされたボールは勢いも高さもないので、相手陣地に落ちるな。まだチャンスは残ってるぞ。

「あ、横水君が!」

「おお!?」

 修斗が宙を舞うボールを追いかけている。偶然とはいえ、あいつの近くに落ちてきたのはラッキーだぞ。

 修斗はそのまま胸でトラップをし、ドリブルで敵の陣地に切り込んでいく。

「と、止めろ! 絶対にボールを奪え!」

 相手の監督が選手に指示を出す。この局面でエースにボールが渡ったのだ。なんとしても奪わなければ失点してしまうかもしれないからな。

 修斗の前に立ちはだかっているのは三人。抜くことが出来れば絶好のシュートチャンスだ。

 一人、二人と巧みなテクニックでかわし、残るはあとは一人。

 その一人を目前にして、修斗は横にパスを出した。

 チームメイトとの連携で最後の一人をかわした。そしてパスを受けた選手はそのボールを修斗へダイレクトパス。キーパーとの一対一だ。

「いけー! 修斗!」

 俺も熱くなってきて、つい叫んでしまう。

「横水君!」

 綾奈も同じみたいだ。

 チームメイトからのパスを、トラップせずにダイレクトシュートを放つ。左サイドを狙ったシュートだ。

 キーパーはダイビングキャッチ……いや、パンチングで守ろうとしたが一瞬遅く、ボールはポストに当たりそのままゴールに入った。


 ゴールが決まった瞬間、うちの中学のチームメイトやギャラリーが歓声を上げた。

「やった! ナイスだよ修斗!」

「うん! すごいすごい!」

 俺と綾奈もゴールを決めた修斗に歓声を送る。

 ポストに当ててゴールを決めるとか、魅せてくれるなぁ。さすがエース。

 みんなの歓声に拳を天に突き上げてこたえる修斗は、走りながらなぜか俺たちのほうへと向かっていた。

「おにーさん!」

 俺を呼んだ修斗は、拳を解き、手のひらを見せた状態でなおもこちらに向けて走ってくる。

 あぁ、なるほどな。

 俺は修斗の意図を理解し、修斗と同じように手を胸の高さまで上げた。

「やったな修斗!」

 そしてそのまま、俺と修斗はハイタッチをした。

「ありがとうございます! …………あ」

 俺とハイタッチをした修斗は小さく驚きの声を上げた。

 なぜなら、俺の隣にいた綾奈が、両手のひらを胸の高さまで上げていたからである。

 修斗は戸惑いながら俺を見る。俺に綾奈と手を合わせていいのかと表情でうかがっている。

 まぁ、修斗はもう綾奈を狙うつもりはないし、俺も綾奈に他の男に触れるなと言うつもりはないから、俺はコクっと一度だけ頷いた。

 俺も綾奈と付き合ってから他の女の人に触れたり触れられたりしてきたから、俺だけそんな束縛をするのはフェアじゃないもんな。

「やったね横水君!」

「はい! ありがとうございます綾奈先輩!」

 修斗は綾奈と両手を合わせて、チームメイトの待つピッチの中央へとかけていった。

「みんなも横水君とハイタッチしたりしてるね」

「先制点でもあり、大きな一点だからね」

 後半も半分を過ぎたあとの一点だ。相手は精神的にかなりキてると思う。

「ん……?」

 なんか、修斗を囲っているチームメイトの様子がおかしい。

 修斗の肩や背中をバシバシ叩いてるし、一人はなぜかヘッドロックしてるし……。

 このチームはシュートを決めた選手にあんなことするのかな?

 でも、シュートを決めてくれたことへの感謝や祝福だけじゃない……なんか個人的な負の感情も混ざっているような感じがするのは俺だけなのかな? あとで修斗に聞いてみるか。

 その後、試合は勢いにのったうちの中学が追加点を決めて、二対零で勝利をおさめた。

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