第414話 真人に牙を剥く後輩女子

「ごめん。ちょっといいかな?」

「「「え?」」」

 俺が手を挙げて三人の後輩に声をかけると、三人は今初めて俺に気づきました的な視線を送ってきた。マジか……。俺は三人の視界に入ってなかったのか。

「……なんですかあなた?」

「今、私たちは西蓮寺先輩とお話をしてるんです。邪魔しないでもらえますか?」

「てゆーか、なんであなたはさも当然のように西蓮寺先輩の隣にいるんですか!?」

 うわぁ……警戒心……というか敵意むき出しだなこの三人。

 後輩とはいえ、睨まれると陰キャオタク的には怯んでしまいそうなんだけど、ここで三人の空気にのまれてしまうと、彼女らは学校で綾奈と修斗のあらぬことを吹聴しそうだし、なんとか真実を伝えないとな。

「えっと、俺たちは今日、修斗に誘われてここに来たんだよ」

「は? なんであなたが修斗くんを呼び捨てにしてるんですか?」

 後輩を呼び捨てにしてもいいだろ。

「それに誘われたのは西蓮寺先輩一人で、あなたなんか絶対呼ばれてないですよね?」

「いや、マジで俺が……」

「西蓮寺先輩にくっついてきたオマケみたいな人が、あたかも修斗くん本人に誘われた風に言うのやめてくれません?」

「そうですよ。おおかた、あなたは西蓮寺先輩が修斗くんに誘われたのを知って、偶然を装って西蓮寺先輩に声をかけたんでしょ?」

「うわ、なにそれ。ストーカーじゃん。キモ……」

「え? ちょっと待って! よく見たらこの人左手の薬指に指輪してない!?」

 ようやくそれに気付いたな。というかそれは綾奈もだからね? なんで最初に気付くのが俺のなんだ?

「本当だ。……え? じゃあこの人、彼女がいるのに西蓮寺先輩に会いに来たの!?」

「うわぁ……」

 俺がオシャレで指輪を着けていたり、綾奈がその彼女って発想はないのかな? まあ、オシャレならわざわざ左手の薬指には着けないだろうし、綾奈が修斗目当てで来てるって思い込んでる時点でそれはないか。

 そして、なんか火に油を注いだみたいになってしまった。女子三人は勝手にヒートアップしてたりドン引きしてたり……。

 う~ん……綾奈関連で女子にここまで言われるのは初めてだなぁ。阿島や中村みたいな男子なら俺からも強く出れるけど、女子相手だとそうはいかない。

 俺が強く出てしまって周りの人が誤解してしまったらそれこそ収拾がつかなくなるし。

「西蓮寺先輩。私たちが来たからにはもう安心ですよ。こんなストーカーのことはほっといて、私たちと一緒に修斗くんを応援しましょう」

 俺がどうしようか対応を決めかねていると、女子の一人が綾奈の手を持ち、自分たちの方へと引き寄せようとしていた。

「あれ? 西蓮寺先輩?」

 だけど、綾奈はそこから動くことはなく、女子は何度か引っ張っているけど何度やっても綾奈は動かない。

 それに、綾奈はいつの間にか顔を俯けているし……あ、これは。

 ヤバいと思った時には遅く、綾奈はゆっくりと顔を上げて後輩女子たちを見た。

 その表情は笑顔だったんだけど、俺はその笑顔を見て背筋が寒くなり震えてしまった。


「私の大切な旦那様をストーカー呼ばわりした人たちと、なんで一緒に試合を見なくちゃいけないのかな?」


「「「え……?」」」

 やっぱりだ。綾奈さん……キレてます。

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