第413話 修斗のファン

 前半の三十分が終わり、現在スコアレスの同点だ。

 だけど、うちの学校の方がボールの支配率は多いし、わりとシュートまでいけてるので、有利と言える。

 フォワードの修斗は、積極的に攻撃に参加しているし、シュートを打っているのだけど、枠に嫌われたり、相手のキーパーのファインセーブなどもあり、得点には至っていない。

 ……てか、中学生のサッカーの試合時間って、前後半合わせて六十分なんだな。

「このままいけば、得点して勝てるかもしれないな」

「うん。それにしても横水君すごいね。初詣で弟の駿輔君が「お兄ちゃんはエース」って言ってたけど、ドリブルもすごいし、的確にパスも出てるし、本当にエースなんだってわかるよ」

 綾奈はこのとおり、試合の熱にあてられてテンションが上がっている。近くの段差がある場所で座って観戦しているのだけど、前半の十分くらいから俺の手を離して試合観戦に集中して一喜一憂していた。

 試合も気になるけど、そんな綾奈もめちゃくちゃ可愛くてつい目がいってしまう。

「……まぁ、修斗かっこいいもんな」

 そんな綾奈の感想に対して、ちょっとぶっきらぼうに返してしまった。

 綾奈は素直な感想を言っているだけで他意はないのに、やっぱり少し面白くないなと思ってしまった。

 自分の狭量さにもだが、弟分にヤキモチ妬くとか……カッコ悪いな俺。

「でも、私はやっぱり真人が一番かっこいいって思ってるよ」

「……あ、ありがとう。綾奈」

 俺の心を見透かしたのか、綾奈が優しく微笑みそんなことを言ってくれるので、俺は照れくさくなり、顔を右に逸らし、右手の甲で口を隠した。

「真人かわいい」

 そんな俺を見て綾奈が「かわいい」と言ってくれる……そんなお決まりのやり取りをしていると、俺たちの近くに、この中学の制服を着た数人の女子生徒が近づいてきた。

「あの……もしかして、西蓮寺先輩ですか?」

「へ?」

 普通に俺たちの後ろを通りすぎるだけだろうと思っていて、まさか声をかけられるとは思ってなかった綾奈は少し驚いていた。

「やっぱり西蓮寺先輩だ! こんにちは」

「こ、こんにちは……」

 綾奈はちょっと困惑気味に挨拶をしてから立ち上がった。

 綾奈を知ってるということは、この学校の二年生か三年生なんだろうな。それにしてもテンションが高いなぁ。

 綾奈は学校一の美少女と呼ばれていたし、生徒会副会長もやっていたから、下級生にも有名で人気が高かった。俺と綾奈がゲーセンで放課後デートしているのを初めて目撃した美奈も知っていたしな。

「あのあの、西蓮寺先輩もやっぱり修斗くんを見に来たんですか?」

「え……?」

「私たちも修斗くん目当てで今日の練習試合を見に来たんです」

 私たちって……彼女らの中では綾奈が修斗目当てで見に来たのは決定事項なのか?

「でもどうやってこの練習試合のことを知ったんですか?」

「もしかして、修斗くんから直接誘われたんですか!?」

「え? じゃあじゃあ、西蓮寺先輩は修斗くんと付き合ってるんですか!?」

「ふえ!?」

 ……おいおい、話が変な方向に向かいだしたぞ。

「前々から噂はあったんですよ。修斗くん、西蓮寺先輩のこと好きって言ってましたし」

 綾奈に会えてテンションが上がったのはわかる。だけど修斗の気持ちをぶっちゃけるのはどうなんだ? まあ、俺たちは修斗の気持ちは知ってるから驚きはしないんだけど……この子たち、もう少し気をつけて喋らないといけないな。

「学校一の美少女と呼ばれた西蓮寺先輩と今の学校一のイケメンの修斗くんのカップル……マンガみたいな組み合わせ」

 あ、やっぱり修斗って学校一のイケメンなんだ。その上サッカー部のエースで今は礼儀正しいって……マジで完璧じゃないか? なんでそんなやつが俺の弟分をやってんだよ!?

 綾奈は後輩たちのテンションであわあわしてるし、ここは俺が言ったほうがいいみたいだな。

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