第412話 修斗への激励

「真人おにーさん、綾奈先輩。来てくれてありがとうございます!」

 修斗がこちら側にやってくると、まずは俺たちにお礼を言った。

 初詣……あの雑木林でのやり取りで、修斗が素直に謝ったのを見て美奈と茉子が驚いていたけど、普通にお礼も言えて、良い奴と思うんだけどなぁ。

 まぁ、俺は修斗と知り合ってそんなに言葉を交わしたわけじゃないし、あの二人の方が素の性格の修斗を知ってるから、俺がどうこう言うものでもないか。

「おにーさん、どうしたんですか?」

 修斗が少しだけ眉を寄せている。ちょっと顔を見て考えすぎたみたいだな。

「いや、なんでもないよ。それより、調子はどうだ?」

「調子いいですよ! 活躍するんで見ていてください」

 どうやら本当に調子は良さそうだ。これならゴールを決めてくれるかもしれない。

「横水君、頑張ってね」

「ありがとうございます綾奈先輩! めっちゃやる気出ました!」

 修斗のテンションが跳ね上がった。元々綾奈が好きだったし、好きな人に応援されるんだから、そりゃ気合いが入るよな。

「あれ? 真人おにーさん。首、どうしたんですか?」

「な、なんでもない。……気にしないでくれたら助かる」

「あぅ~……」

「あ……すみません」

 どうやら察してしまったようだ。

 言い訳を考えた方がいいのかな? よくマンガやラノベなんかでは虫刺されって言ってバレるパターンがあるけど、今は真冬だから虫はいない。……その時に考えるか。

「そうだ。おふたりとも、試合が終わったあとって時間、ありますか?」

「私は大丈夫だよ。このあとは特に予定がないし。ね、真人」

「そうだな。俺も大丈夫だよ……ぁ」

「その、試合が終わったらおふたりで部室に来てくれませんか?」

 そういえばショッピングモールで会った時に、綾奈に誕生日プレゼントを渡したいって言ってたもんな。となれば、渡すタイミングは試合後になるわけだ。

「俺は大丈夫だよ。綾奈は?」

「私も大丈夫だよ」

「よかったぁ……! じゃあおふたりとも、試合が終わったら───」

「横水何やってんだ!? 試合始めるから整列しろー!」

 修斗が言い終わる前に、俺たちから少し離れたところにいるサッカー部の顧問の先生が修斗に呼びかけた。

 実はサッカー部の顧問は、俺と綾奈の中学三年の時の担任だ。あの先生は当時の俺と同じくらいの体型をしている。変わらないなぁ。

「もうそんな時間か。……じゃあ真人おにーさん、綾奈先輩。いってきます!」

「おう、頑張れ!」

「しっかりね」

「はい!」

 修斗は俺と綾奈に手を振りながらグラウンドの中央へ走っていった。

 修斗も整列し、お互い礼をした。いよいよ試合が始まるんだ。ちょっと緊張してきたな。

 出来ればうちの中学には勝ってほしいけど、相手の強さはどれくらいなんだろう? でも、きっと大丈夫だろう。今日の修斗は本当にやってくれそうな感じがしたし。

「あ、そうだ。綾奈」

「なぁに? 真人」

「あとで先生に挨拶しに行こうよ」

 一年間お世話になった担任の先生だ。さすがに試合だけ見て帰るのは申し訳ないもんな。

「私も同じこと考えてたよ。先生に会うのも久しぶりだったからお話したかったんだ」

「一緒だね」

「うん! 嬉しいなぁ」

「俺も」

 些細なことだけど、やっぱりお嫁さんと同じことを思っていたんだってわかったら心が踊る。

「えへへ。じゃあ試合が終わったら挨拶に行こうね」

「うん」

「それも、喜んでくれるといいね」

「だな……」

 試合後のちょっとした予定を決めたところで、試合開始のホイッスルがグラウンド中に響き渡った。

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