第411話 久しぶりの母校

 翌日の日曜日。俺と綾奈は懐かしの学び舎……去年まで通っていた中学校のグラウンドに来ていた。俺たちが手を繋いで立っているのはグラウンドの隅の方だ。

 ちなみに綾奈と手を繋いでいない方の手には、ある物が入った紙袋を持っている。

「ここに来るのも一年ぶりくらいか……」

「ねー、懐かしいよね」

 中学時代の思い出を頭の中で振り返りながら、俺と綾奈は今回ここに来た目的……サッカー部の練習試合前のアップをしている後輩たちを眺めていた。

 先週、ショッピングモールで修斗たちと偶然会い、その際にサッカー部の練習試合があるから見に来てほしいと言われて、綾奈と相談して見学にやって来た。

 美奈と茉子にも声をかけたんだけど、美奈は「同級生の試合見ても面白くない」と言い、茉子は、「真人お兄ちゃんたちの邪魔したくないから……」って来なかった。

 おそらくだが、茉子も美奈と同じようなことを思っている、もしくは美奈と茉子は修斗と一緒にいた二人の自分たちに向けられている気持ちに気づいていて、それで来なかったのかもしれないな。

 ごめんな修斗と一緒にいたふたり……。

「それにしても……ギャラリー、女子が多いな」

 グラウンドを見渡すと、各校の部員以外……俺たちのようなギャラリーも十人ちょっといるけど、三分の二くらいが女子だ。

「ねー。誰かのファンなのかな?」

「だとしたら修斗のだろうな」

 あいつイケメンだし。

 先週ショッピングモールで会った二人もなかなかのイケメンだったけど、やっぱり修斗の方がかっこいいと思う。

「ところで、綾奈はサッカーのルールはわかる?」

「ん~……そこまで詳しいわけじゃないけど、少しならわかるかな」

「そっか」

 運動が苦手な綾奈は、もしかしたらメジャーなスポーツのルールがわからないのではと思って聞いたんだけど、全く知らないわけでもないみたいだ。

 というか、顎に人差し指を当てる仕草が可愛い。

「綾奈、寒くない?」

 今日も晴れているけど、風がちょっと強い。

 俺も綾奈も防寒対策はしてきているけど、やっぱり北風は冷たいからな。試合もなかなか長いから、もし綾奈が寒さを訴えてきたら修斗には悪いけど途中で帰る選択もしなければと考えていた。

 ちなみに今日の綾奈のコーデは、上は白のパーカー付きトレーナーにネイビーのコート、下はスキニージーンズに薄ピンク色のスニーカーという、スポーツ観戦用のコーデとなっている。

「大丈夫だよ。このコートあったかいから寒く…………」

 あれ? 綾奈が言葉を途中で止めた。確かにあったかそうなコートではあるけど、風が強いからそれでやっぱり寒いってなったのかな?

「綾奈?」

「やっぱり寒いから真人にくっついちゃお!」

「ちょっ!?」

 そう言って綾奈は俺にピトッと身を寄せてきた。いきなりだったからびっくりした。

「えへへ~、あったか~い♡」

「俺もあったかいよ」

 綾奈がくっついてるのもあるけど、ドキドキして心拍数が上がったことにより体温が上昇しているともいう。けどそれを言ったらムードがぶち壊しになるので言わないけどね。

「そ、それにしても、……ちょっとだけ見えちゃってる?」

「まぁ、うん。角度によってはね」

 綾奈は頬を赤くしながら、俺の首筋につけられたキスマークを見て言った。

 昨日の夕方、綾奈とイチャイチャしている時につけられたやつなんだけど、俺の今着ているコートでは首元は隠せているんだけど、角度によっては微妙にキスマークが見えてしまう。首元をきっちり隠せるハイネックなやつを着てくるんだったな。それかマフラー。

「ご、ごめんね真人……」

「気にしてないって。制服のシャツで隠せるから、学校では見えないし。それに、俺は綾奈のですよって証拠にもなるしね」

 まぁ、制服も角度によって見られると思うから、あいつらに見られないようにしないとな。

 しかし、このキスマークをつけてから綾奈が何回謝ってきたか……。まぁ、一哉や茜に見られたらかっこうのイジリネタにされるのはわかってるからなんだろうけど……。

 だけど、見られなければどうということはないんだ。ネットで調べたら、キスマークは早ければ三日くらいで消えるっぽいから、来週の前半隠し通すことが出来れば、キスマークが付いていた事実は俺たちと綾奈のご両親だけしか知らないまま終わることが出来るからな。

「真人は、私の……えへへ♡」

 綾奈がもう気にしないように言ったんだけど、予想以上に効果があったみたいだな。

 俺は鼻を鳴らすと、自然と笑顔になって綾奈の頭の上に手を置いた。

「おにーさーん! 綾奈せんぱーい!」

 綾奈の頭を撫でていると、いつの間にかアップを終えた修斗がこちらに走ってきていた。

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