第408話 最高のサプライズ
このガトーショコラを作ったのが俺だとわかった瞬間の綾奈の驚きようは凄かった。でも、驚いて当然だよな。さすがの綾奈も俺がケーキを作ったなんて考えないだろうし。
「え? ほ、本当に……? 本当にこのガトーショコラ、真人が、作ったの……?」
「うん。……びっくりした?」
今だって驚きすぎて目を見開いて俺と俺の作ったガトーショコラを交互に見てるし。
「び、びっくりなんてものじゃないよ! で、でも……真人って簡単なものしか作れないって言ってたよね!?」
「うん。母さんに教えてもらってはいるけど、そこまで手の込んだ物は作れないよ。このケーキだって最初は綾奈が言ったように翔太さんに頼むつもりだったし」
「そ、そうなの?」
「うん。そしたら翔太さんが俺に、「綾奈ちゃんのケーキを作ってみない?」って言ってね。それで挑戦してみたんだ。練習は今週の放課後にして、昨日このガトーショコラを焼き上げたんだけど、やっぱり上手く作れなかった」
翔太さんと、あとたまに拓斗さんにみっちり教えてもらったけど、やはりまだまだ料理の練度が足りなかったために、形も綺麗な円形には出来なかった。
てか、翔太さん……教え方は優しいんだけど容赦……というか妥協がないから俺もこの一週間は必死だったよ。多分、俺だから優しく教えてくれたんだろうけど、弟子の拓斗さんにはケーキを作る際、ちょっと当たりが強かった。
翔太さんの厳しい修行を耐えてるのを見て、拓斗さんを少し尊敬したよ。……いい人だし面白い人だから元々尊敬はしていたけど、それを強めたって言ったほうが正しいな。
あと拓斗さん……一切携わってないって嘘じゃないですか。少しとはいえ俺に教えてくれたし。
「昨日って……まさか、私の家に来るのが遅かったのって……」
どうやら綾奈も気がついたようだ。
「そうだよ。このガトーショコラを作ってたから遅くなったんだよ」
「……私の、ために?」
「もちろん。大好きなお嫁さんのために心を込めて作ったよ。……味はまぁ、翔太さんから及第点はもらってるから大丈夫……だと思う」
いつもここで食べているケーキよりかはもちろん味は落ちるけど、綾奈の誕生日をお祝いしたい気持ちと、綾奈への愛情はこれでもかというほど込めた。そこだけは誰にも負けない。
「……ま、ましゃとぉ……ふえぇ……」
俺が作ったことを完全に理解した綾奈は、目に涙を浮かべ、顔が徐々にくしゃっとなり、ついには綾奈の目から大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
「あ、綾奈!?」
翔太さんも電話で言ってたし、俺も多分、綾奈は泣くだろうなと予想していたんだけど、やっぱり実際に泣いてるところを見てしまうと、わかっていても慌ててしまう。
俺はすぐに泣いている綾奈の元へと駆け寄る。
すると、綾奈はすぐに俺の腰へ両腕をのばし、顔を俺のお腹へと埋めた。
そんな様子を近くにいたドゥー・ボヌールのスタッフさんと麻里姉ぇがじっと見ている。
「ましゃと……ましゃとぉ……! ふえぇー……」
俺は両手を綾奈の背中と頭にのばし、ゆっくり優しく頭を撫でる。
「綾奈……改めてになるけど、誕生日おめでとう。いつも俺に笑顔をくれてありがとう。俺を支えてくれてありがとう。俺にいっぱいいっぱい愛をくれてありがとう。同じ時代に生まれて、出会ってくれてありがとう。綾奈……俺の大好きお嫁さん……世界で一番愛してるよ」
はは……こんなこと、言うつもりなかったんだけどな。綾奈が泣いてるのを見て、自然と言葉が出てきた。本当……綾奈には今言ったこと以外にも感謝してることがあるし、「ありがとう」もいっぱい言いたい。でもまぁ、これ以上言うと綾奈の涙がさらに溢れそうだから、それはまたいつか言おう。時間は、いっぱいあるんだから……。
「お、おれ……お礼を、言うのは……私の、ほうだよ!」
俺のお腹に顔を埋めて、くぐもった、それでいて嗚咽混じりな声で綾奈がそう言うと、顔を上げてまっすぐに俺の顔を見てきた。
泣いてくしゃくしゃになっているその顔を見て、俺は、すごく美しいと……そう思った。
「ましゃと……私の、大しゅきな、旦那しゃま……。うえっ、き、今日は、私のために、本当に……ふぇ、ありがとう! 楽し、かったし、サプライズの、連続で……ぐすっ、すごくすごく、嬉しかった。一生、忘れられ、ない、思い出に……なったよ! 私も……ましゃとを、世界一、あいしてるよぉ……ふえぇぇぇん!」
再び顔を俺のお腹へと埋めた綾奈は、さらに号泣してしまった。
俺はそんな綾奈を、皆さんが見ている中、落ち着くまでずっと抱きしめ続けた。
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