第407話 真人の作ったガトーショコラ

「おまたせー」

 お姉ちゃんとのお話がちょうど一段落したところで、真人が戻ってきた。その両手には一人分に切られたダークグレーのケーキが乗ったお皿を持っていだ。ケーキの上には白い粉砂糖がふんだんにかけられている。

 真人の後ろには、まだ切り分けられていないケーキが乗った大皿を持ったお義兄さんがいた。

「おかえりなさい真人。それってもしかして、ガトーショコラ?」

「当たり。さすが綾奈」

「えへへ~」

 些細なことでも、真人に褒められるとすごく嬉しくなる。欲を言えば頭を撫でてほしかったけど、お皿を持っているから両手が塞がっている今の真人は出来ない。

「綾奈はガトーショコラ好き?」

「うん。大好きだよ」

「よかった」

 真人はガトーショコラの乗ったお皿をゆっくりとテーブルの上に置いた。

 何も持っていないその手を、真人は私の頭に優しく置いて撫でてくれた。してほしかったことをしてくれて、私の顔は条件反射のように緩み、熱を帯びていった。

「ガトーショコラを選んでくれてありがとう真人。お義兄さんも、作ってくれてありがとうございます」

 私は真人にはもちろん、忙しいのに私のためにガトーショコラを作ってくれたお義兄さんにもお礼を言った。

「え?」

「へ?」

 だけど、優しい笑顔になると思っていたお義兄さんの顔はきょとんとしていた。

 予想外のリアクションだったので、私もきょとんとなってしまった。

「綾奈ちゃん。このガトーショコラは僕が作ったものじゃないんだよ」

「そ、そうなんですか!?」

 え? 真人がお義兄さんにお願いして、お義兄さんが焼いたものじゃないの?

 私はガトーショコラとお義兄さんを交互に見る。そこで私は気がついた。

 このガトーショコラ、ちょっとだけだけど綺麗な円形になっていない。

 お義兄さんが作るケーキは、味はもちろんだけど、形も綺麗で目でも楽しめると評判のケーキなんだけど、このガトーショコラはお義兄さんが作ったそれよりも見た目が劣っている感じがした。

「え? じゃあ、作ったのは……拓斗さんですか?」

 ちょっと失礼になっちゃうけど、お義兄さんの元でパティシエの修行をしている拓斗さんが作って、もしかしたらちょっと失敗しちゃったのかなって思って、拓斗さんと予想したんだけど……。

「残念だけど綾奈ちゃん。俺はこのガトーショコラには一切携わってないよ」

「ち、違うんですか!?」

 拓斗さんも違うって……じゃあ、本当に一体誰が作ったの?

 お義兄さんと拓斗さん以外にもパティシエさんはあと二人いるけど、その人たちとは親しくないから、私のケーキを作ってくることはないだろうし、そもそもそんな特別なケーキをお義兄さんが他の人に作らせるとは考えにくい……。

 …………あれ? 特別な、ケーキ……? 『特別』…………。

「も、もしかしてっ!!」

 私は、私の誕生日ケーキという特別なものを作ってくれそうな人物……私の旦那様の真人を見る。可能性としては一番考えにくい……というか、真人は簡単なものしか作れないって言っていたから、考えることすらしなかった。

 そんな旦那様を見ると、顔を右に逸らして手の甲で口を隠す、照れたときにするかわいい仕草をしていた。

「そうだよ綾奈ちゃん。このガトーショコラを作ったのは、他でもない真人君だよ」

「え……ふえぇぇぇぇぇ!?」

 このガトーショコラを、真人が作った!? ほ、本当に!?

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