第404話 貸し切りになるドゥー・ボヌール
電車に揺られること三駅……俺たちは自分の家がある最寄り駅へと帰ってきた。
ここからドゥー・ボヌールは徒歩五分圏内。すぐそこだ。
「戻ってきたね。ここからどこに行くの?」
「それは行ってからのお楽しみだよ」
「わかった。楽しみにしてるね」
改札を抜け、駅構内でまた手を繋いで俺たちは歩き出した。
そして歩くこと約五分、ドゥー・ボヌールに到着した。
「着いた。ここだよ」
「え? ドゥー・ボヌール?」
いつもドゥー・ボヌールへ行く道を歩いていたから、多分綾奈も途中から勘づいてはいただろうけど、まさか本当にドゥー・ボヌールが目的地だとは思ってなかったみたいだ。
「も、もしかして、ケーキを用意してくれたの!?」
「まぁ、そんなところだよ」
綾奈はまさか俺個人がケーキを用意してるとは思ってなかったようで、目を輝かせているが、誰が作ったケーキかは聞いてこなかったので、この分だと俺が翔太さんに頼んで作ってもらったケーキと思ってそうだな。俺も最初はそうしようと思ってたわけだし。
「ありがとう真人! 大好き!」
綾奈は俺に抱きついてきた。もちろんめちゃくちゃ嬉しいんだけど、綾奈さん、ここ外だから通行人にめっちゃ見られてますよ。
「俺も大好きだよ。さ、早く入ろう」
ここで俺があたふたすると綾奈はしばらく抱きついたままになるので、俺は綾奈を抱き締め返して愛も囁き返した。ハグは帰ってからいっぱいしよう。
「うん! えへへ~、真人がお義兄さんにどんなケーキを頼んだのかすごく楽しみ~」
あ、やっぱり綾奈は翔太さんが作ったケーキと思っているみたいだ。
そりゃそうだよな……綾奈は俺が料理出来るのはもちろん、そのレベルまで知っている。素人に毛が生えたくらいの料理スキルしか持ってない俺がまさかケーキを作ったなんて思わないよな。
だけどそれはサプライズを仕掛ける側としては好都合だ。
そうして俺はドゥー・ボヌールの入口のドアを開けた。
「こんにちはー」
お店に入ると、店内は慌ただしくお客さんでいっぱい……ではなく、むしろその逆で、店内にはお客さんが数人しかいなくて、スタッフさんも、今はお客さんがいないテーブルと椅子の掃除をしていた。
「あれ? 珍しいね。週末のこの時間だとまだお客さんがいっぱいのはずなのに……」
実はこれも翔太さんの案で、俺の誕生日のとき同様、この時間から店を貸し切りにすると言い出したのだ。
俺がケーキを作る計画を押し通した翔太さんだ。俺が何を言っても無駄なのはわかっていたので貸し切りにしてもらうようお願いした。
そしてそれはSNSを使って発信しているらしいので、ドゥー・ボヌールのアカウントをフォローしているユーザーが拡散してくれていたので、もうすぐ貸し切りになることを知っているからお客さんもまばらなのだ。
「お、真人君、綾奈ちゃん。いらっしゃい」
「「こんにちは拓斗さん」」
今回出迎えてくれたのは千佳さんのお兄さんの拓斗さんだ。
俺と綾奈は拓斗さんに挨拶をすると、綾奈に気づかれないようにこっそり拓斗さんとアイコンタクトを交わした。
「空いてる席に適当に座っててよ」
「わかりました。綾奈、行こう」
「うん」
俺たちは店の少し奥の方の席に座った。
そこから拓斗さんを見ると、拓斗さんは店の奥から取り出した横長の木製プレートを持って出入口に向かい、扉を開けるとそのプレートを扉にかけた。
あれは店が貸し切りの状態にあることを知らせるプレートだ。二週間前にもアレを見たから覚えている。
あのプレートを見ると、いよいよ綾奈にケーキを食べてもらう時間が迫ってきたと実感させられる。
「ありがとうございました。またご利用くださいませ」
俺たちがドゥー・ボヌールに来店してから十分少々、最後のお客さんも店をあとにして、いよいよこの店には、スタッフ以外は俺たちしかいない状態になった。
最後のお客さんをお見送りした店長の翔太さんがゆっくりとこっちに歩いてきた。
「綾奈ちゃん、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございますお義兄さん」
翔太さんが義妹の綾奈にさわやか笑顔でお祝いの言葉を贈ると、その綾奈は満面の笑みで返した。相変わらず段違いのイケメンと美少女だな。
「あの、ケーキを用意してくれてるって真人から聞いたんですけど……」
「そうだよ。すぐに持ってくるから待ってて。真人君、手伝ってくれるかい?」
来た。いよいよだ。
「はい。綾奈、ちょっと行ってくるから待っててね」
「は~い」
俺は席を立ち、綾奈の頭を一撫でしてから翔太さんについていく形で厨房へと入った。
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