第403話 次はドゥー・ボヌールへ

「楽しかった~! 真人、本当にありがとう」

「どういたしまして」

 午後三時、猫カフェ・ライチを出てすぐに、綾奈は満面の笑みでお礼を言ってきた。

 わずか一時間だけの滞在だったとはいえ、綾奈は大好きな猫とめちゃくちゃ戯れていたからご満悦のようだ。一番会いたがっていたきららちゃんにも気に入られたみたいだしね。

 写真や動画もいっぱい撮ったから、俺のスマホの綾奈フォルダが一気に潤った。

 店を出るとき、出入口付近にお客さんが何組書いたけど、多分俺たちのあとにあそこを利用する人……抽選に当選した人なんだろう。

 こりゃあ次にここに来るのはいつになるかわからないな。


 さて、猫カフェも堪能したし、次はいよいよドゥー・ボヌールだ。

 いよいよ綾奈に俺の作ったガトーショコラを食べてもらう瞬間が近づいてきたのだが、そう意識すると一気に緊張してきた。

 翔太さんからも一応の合格は貰ったけど、綾奈の口に合うのかはまた別問題だ。

 もし万が一、俺の作ったガトーショコラを食べた綾奈が「不味い」なんて言ったら、ここまでいい感じで過ごした誕生日も後味の悪いものとなってしまう……。

 まぁ、もう作ってしまったので、あれこれ考えても仕方がないのだが、緊張してちょっと胃がキリキリしてきた。

「真人、大丈夫?」

「え?」

 俺がネガティブな考えをしていると、すぐ横から俺を本気で心配する綾奈の声が聞こえてきた。

 綾奈を見ると、声だけでなく表情からも俺を本気で心配してくれているのがわかる。いらぬ心配をかけさせてしまって申し訳なくなる。

「難しい顔してお腹を押さえてるから……お腹、痛いの?」

 俺がお腹を押さえている手に、綾奈はそっと自分の手を重ねてきた。お互いじかに手を繋ぎたいがために手袋をしていないので、綾奈の手の柔らかい、それでいてひんやりとした感触が俺の手の甲に伝わる。

「だ、大丈夫。お腹は痛くないから。ありがとう綾奈」

「うん……。本当に痛くなったら遠慮なく言ってね?」

「わかったよ。お嫁さんをこれ以上心配させたくないしね」

「うん……」

 心配してくれた綾奈の頭をお腹を押さえていない方の手で優しく撫でると、綾奈はふにゃっとした笑みを見せてくれた。

 ……もう悪い方向に考えるのはよそう。

 大丈夫。綾奈はきっと「おいしい」って言ってくれる。その道のプロに合格をもらったし、何より俺の愛情をたっぷりと込めたんだ。もっと自信を持とう!

「綾奈。家に帰る前にもう一軒寄りたいお店があるんだけどいいかな?」

「もちろんいいよ。次はどこに連れて行ってくれるの?」

 満面の笑みで即答してくれた。綾奈の確かな信頼を感じてとても嬉しくなる。

 綾奈に同じことを言われてたら、俺も綾奈と同じように即答するだろうけど、やっぱり特別に想っている人に全幅の信頼を寄せてもらえるとすごく嬉しくなるな……。

「それは行ってからのお楽しみだよ。まずは駅に向かおうか」

「わかった。いこ、真人」

 綾奈と腕を組んで、俺たちは駅へと向かって歩き出した。

 ドゥー・ボヌールに近づくにつれ、俺の鼓動は徐々に早く、強くなっていった。

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