第399話 スコティッシュフォールドのラック君

 俺と綾奈は手をアルコールで除菌したあと、城下さんに連れられ、この猫カフェの一番奥のスペース……床やソファがピンク色の場所に通された。

 この猫カフェ・ライチは青、黄、緑、ピンクの四つの区画に分かれていて、ひとつの区画に一組のお客が入り、飲み物を飲んだり猫と戯れたり出来る。

 つまり、一度に四組のお客さんしか入れないから、予約が殺到して抽選になるのも納得だ。

「ふたりは猫カフェに来るのは初めてだよね? 簡単にルールを説明したほうがいい?」

「そうですね。お願いします」

 猫カフェにおけるルール……これもネットである程度は調べてきたけど、やはりお店の人に享受するのが一番だと思い、俺は城下さんに説明をお願いした。

「了解。他のお客さんや猫ちゃんがびっくりするから大声は出さないこと、猫ちゃんを無理やり抱っこしたり追いかけ回さないこと、飲食中は猫ちゃんに触らないこと、特定の猫ちゃんを独り占めしないこと、猫ちゃんが寝ていたら無理やり起こさないこと、写真は基本オッケーだけど、フラッシュは猫ちゃんがびっくりするからダメね。あと、当然だけど、飲み物や食べ物を猫ちゃんに与えるのもダメ。駆け足で言ったけどこれくらいかな? 二人とも、わかったかな?」

 なるほど……ネットで予習してきたルールと大差はないみたいだ。

「はい、大丈夫です。ね? 綾奈……」

「私も大丈夫です……」

 綾奈はそう言っているけど、近くを歩いている三毛猫をチラチラと見ていてめっちゃソワソワしていた。

「綾奈も大丈夫みたいです」

 やや不安はあったけど、綾奈も店に迷惑をかける行動はしないだろうし……うん、大丈夫だよ。

「綾奈ちゃんは本当に猫ちゃん大好きなんだね」

「ですね。メッセージでもよく猫のスタンプを使ってますし、パジャマも猫のシルエットがプリントされてるし……綾奈の誕生日にここに連れてこられて本当に良かったです」

「綾奈ちゃん今日が誕生日なのね! おめでとう」

「ありがとうございます城下さん」

 さすがにここは城下さんの目を見てお礼を言ったな。

 それから城下さんはオーダーを聞いてきたので、俺たちはホットカフェラテとフライドポテトを注文すると、城下さんは「ごゆっくり~」と言って俺たちから離れていった。

「それにしても、猫カフェだから当たり前だけど、本当にいろんな猫がいるなぁ」

 俺が視認出来るだけで三匹の猫が歩いていたりキャットタワーを登っていたりしている。他のお客さんから猫と戯れているような声も聞こえるから、他の猫は自分たちの職務を果たしているようだ。

「あ! 真人、ラックくんだよ! ラックくんがこっちに来てるよ!」

 綾奈が指さした方を見ると、確かに一匹のスコティッシュフォールドがゆっくりとこちらに向かって歩いていた。あれがラック君か。写真より顔がキリッとしている。

「おいでおいで~」

 綾奈はソファから腰を浮かし、床に正座をし、少し前屈みになってラック君を呼んでいる。

 ラック君はゆっくり綾奈に近づいていき、綾奈の出した人差し指の匂いをくんくんと嗅ぎ出した。ゆっくり瞬きをしているから、警戒してはいないみたいだ。……猫カフェで働く猫だから人慣れしてるのは当然か。

「はぁ~……!」

 ラック君があまりにも可愛いからか、綾奈から感動のため息が漏れていた。

 俺はシャッターチャンスだと思い、ズボンのポケットからスマホを取り出し素早くカメラを起動させて、角度を変えて写真を撮った。

「あぁ~……」

 だが、匂いを嗅いだあとに踵を返したラック君はそのまま俺たちから離れていってしまい、綾奈からめちゃくちゃ残念そうな声が出ていた。

「まぁ、猫は気まぐれだからね。ラック君もまた来てくれるかもしれないから待ってようよ」

「うん……。ね、さっき撮った写真見せて」

 俺に振り向いた綾奈は笑顔で、俺にピタッとくっつく形でソファに座り直した。

 二人で写真を見ていると、城下さんがさっき注文した品物を持ってきてくれて、俺たちは他の猫を見ながらフライドポテトを食べるのだった。

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