第398話 当選は勝ち取ったもの?

 話題の猫カフェ、ライチに入店してさっそく驚かされてしまった。

 まさかそれが猫ではなく、ここで働く従業員の中に知ってる人がいるなんて……世間狭すぎだろ!?

「お、お久しぶりです城下さん。……というか、ここで働いていたんですか?」

「そうなのよ真人君。普通のOLだったんだけど、このライチがオープンするにあたって求人募集があって、思い切って入ってみたらめっちゃ楽しくてね。これは天職かもって思ってるの」

「そ、そうだったんですね……」

 確かにこれだけの猫に囲まれての仕事なら、お世話とかは大変そうだけど癒されるだろうな。綾奈もさっきまで城下さんに驚いていたのに、いつの間にかこのお店の猫にめっちゃ目移りしてるし。

「あ、あれは小雪ちゃん! それにあっちにはゆずちゃんもいる! みんなかわいいよぉ~」

 ……うん。猫と触れ合う前から楽しんでくれてるようでなによりだよ。

「綾奈ちゃんは猫ちゃんが好きなんだね。なんならここでバイトでもしてみる?」

「うぅ~……とても魅力的なお誘いなんですけど、部活もあるし、何より真人と一緒に過ごす時間も減っちゃうから、今は遠慮しておきます」

「確か綾奈ちゃんは合唱部だよね……そうなると麻里奈様に申し訳ないからやっぱり今のなしで。ごめんね綾奈ちゃん」

 城下さんの突然の勧誘が始まったと思ったら、麻里姉ぇに怒られるかもしれないと思った城下さんは急に手のひらを返した。麻里姉ぇは怒らせると怖いから、城下さんの判断は正しいといえる。そもそも高崎高校の生徒ってバイト出来るのかな?

「ってそうだ。いつまでも立ち話してたらここに来た意味がないよね。んんっ、では、お席にご案内しますのでこちらへどうぞ」

 城下さんが店の奥に向けて歩き出したので、俺と綾奈は城下さんのあとに続いた。

「あの、城下さん」

 その途中で、俺はある疑念が浮かんでしまい、それを城下さんに聞くことにした。

「ん? どうしたの真人君」

「その……抽選のとき、城下さんが俺の名前を見つけたから俺を当選させた……っていうのじゃないですよね?」

 俺はここの入店する権利をかけて抽選に応募して見事当選した。

 だけどそれは、もしかしたら当選者を選ぶ際、城下さんが偶然俺の名前を見つけて、知り合いということで優遇されての当選なのではないかと思ってしまった。

 もし万が一そうなら、それは抽選なんかじゃなくただの出来レースだ。そんなことで勝ち取った権利だったら、俺はこれからの猫との触れ合いの時間を心から楽しめない。勝ち取ったなんて言えない。

 綾奈には悪いけど、最悪退店することも考えないといけない。

「それは大丈夫だよ。ここの抽選システムはパソコンで完全ランダムで行われるから、真人君が心配していることは断じてないわ。真人君は、ちゃんと運でこの店に入る権利を手に入れてるから安心して」

 城下さんは白い歯を見せながらウインクをした。この人もやっぱり美人さんだ。

「それにしても、真人君は真面目だなぁ」

「いやいや、普通知り合いがいたら気にするでしょ」

「私なら何も考えないで普通に楽しんでいたと思うな。綾奈ちゃんはそんな真面目な真人君をどう思う?」

 ここで綾奈にふらんでもいいでしょう。

「その真面目なところが大好きですよ。真人は私の自慢の旦那様ですから」

 そんなセリフを恥ずかしげもなく言ってのける俺の自慢のお嫁さんは、城下さんや他の数組のお客さん、そして猫たちがいる中、俺の腕に抱きついてきた。

「あはは。ドゥー・ボヌールでも思ったけど、本当に二人はお似合いだよね」

「そ、そうですか? ……えへへ♡ お似合いだって」

「俺も嬉しいよ。ありがとうございます城下さん」

 そんなイチャイチャする一幕もありながら、俺と綾奈は城下さんと店の奥の方へと歩いていった。

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