第396話 誕生日記念のプリクラ

 昼食を食べ終え、いよいよ出かけようとしているタイミング、クリスマスイブのデートの時同様の髪の編み込み、そして裾が折られたデニムのショートパンツと黒のニーハイソックスから覗く美しい絶対領域に見とれながらも、俺は綾奈にプレゼントが入った紙袋をキャリーケースから取り出した。

「はい、綾奈。これが俺からの誕生日プレゼントだよ」

「わぁ~! ありがとう真人!」

 満面の笑みを見せてくれる綾奈に、俺は紙袋を手渡した。

「開けていい?」

 今すぐ開けたいと言わんばかりの表情をしている綾奈。頬が赤くなり、口が弧を描いていて我慢出来そうになさそうだ。

「もちろんいいよ」

 俺がそう言うと、綾奈は紙袋からラッピングされた包装紙を取り出し、紙袋をローテーブルに優しく置き、丁寧に包装紙を開封しだした。

 包装紙を開ける手つきは慎重だが、その表情はプレゼントをもらった子供のようだった。

「これ……シュシュ?」

 やがてプレゼントを見た綾奈は、目を開いて俺と俺がプレゼントしたシュシュを交互に見ていた。

「うん。綾奈、うちにお泊まりに来てた時、たまに髪を後ろで束ねてたろ? 実はあれを見てプレゼントはシュシュにしようって思ったんだ」

 綾奈は大晦日に年越しそばを作ってる時や、一緒にお風呂に入った時は、その肩くらいまである美しいボブの黒髪をヘアゴムで束ねているのを見て、もっとこの髪型の綾奈を見ていたいと思い、冬休みの段階でプレゼントはシュシュにしようと決めていたのだ。

 髪を後ろで束ねるなんて、ある程度髪が長い人なら普通にするだろうけど、俺の部屋に来た綾奈がそれをしていて、可愛くてマジで見惚れたんだよ。

「かわいい……」

 綾奈がポソりと呟いたと思ったら、シュシュを映している綾奈の両目が少しずつ輝きだしたように感じた。

「まぁ、指輪からのシュシュで、落差が激しいと思うけど……」

「そんなことないよ! 真人が、私の愛しの旦那様が私のために用意してくれたプレゼントだもん……落差なんてない、気持ちが……愛情がすごくこもった最高のプレゼントだよ」

 ……綾奈なら、値段とか関係なく俺が贈ったものなら喜んでくれるとは思っていたけど、俺の予想を遥かに超える言葉をもらった。『最高』とまで言ってくれるなんてな……。

 俺は綾奈の言葉が嬉しくなって照れてしまい、顔を右に逸らし、右手の甲で口を隠した。

「ありがとう真人。このシュシュも、大切にするね!」

「う、うん……」

 このときの綾奈は、またも俺に満面の笑みを見せてくれたのだが、照れてしまってその笑顔を見ることが出来なかった。

 それからすぐに綾奈はそのシュシュで髪を束ねようとしていたんだけど、俺が外は寒いし髪を束ねてしまったら風で首元が冷えてしまうと言うと、シュシュを右の手首に身につけて、しばらくのあいだ、手首にまかれたシュシュを見て、綾奈はずっとにこにこしていた。


「もう本当に嬉しくて、指輪同様肌身離さず身につけようと思ってます」

 プレゼントを渡した時のことを思い出しているあいだに綾奈がそんな嬉しいことを言ってくれて、俺はまた照れてしまい顔を逸らし口を隠した。

「真人また照れてる~。かわいい♡」

 テンションの上がっている綾奈は俺の腕に抱きついてきた。

 いやいや綾奈さん……可愛いのはあなたですから。

「そういうことなら、二人とも、大晦日に俺が言ったことを覚えてるかい?」

「大晦日?」

 店長にそう言われ、俺は大晦日にこのゲーセンの前で店長と話した時のことを思い出していた。

 短いあいだだったけど、色々話したよな。麻里姉ぇが綾奈が俺にイチャつきを強要してるのではないかや、俺が灰皿近くに落ちていた吸殻を拾ったり……あ!

「お、その顔は思い出したのかな? そう……今度ここに来たときはゲームを一回無料にするってやつだよ」

 確かに店長は言った。俺が吸殻を拾ったお礼として……。

「え? マジでいいんですか?」

 俺、あれは冗談だと思ってたんだけどな。

「もちろんだとも。じゃあ二人とも、撮影する筐体を選びに行こうか」

 店長は笑顔とサムズアップを俺たちに向けながらそう言うと、俺たちの返事を待たずにプリ機が並ぶエリアへと来た道をずんずんと戻り始めた。

 俺は綾奈と半ばぽかんとした表情で見つめあったのだけど、すぐに若干の苦笑いをお互い浮かべて店長のあとを追いかけた。

 多分俺たちが何を言っても店長は折れないと思ったので、お言葉に甘えることにした。

 撮影する筐体を選び、店長が持っていた鍵で筐体の操作盤みたいなのをポチポチすると、お金を入れてないのにモード選択画面が表示された。

 店長にお礼を言って撮影したプリクラは、イチャつき全開の俺たちと、綾奈の誕生日記念の文字やスタンプをいっぱい編集した、今日という日の最高の記念になった。

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