第393話 部活がはじまる前、麻里奈との通話

 綾奈と千佳さんを駅で見送り、西蓮寺家に向けて来た道を戻っている途中、俺はズボンのポケットからスマホを取り出して麻里姉ぇに電話をかけた。

「やっぱりメッセージの方が良かったかも……」

 高崎高校合唱部の顧問をしている麻里姉ぇだ。もう学校に着いている可能性はあるので、取れないかもと電話をかけたあとで気づいた。

『もしもし?』

 だが、その考えは杞憂に終わり、三コールで麻里姉ぇが出た。

「もしもし。ごめん麻里姉ぇ……いきなり電話して」

『大丈夫よ真人。それで、どうしたのかしら?』

 どうやら電話を続けても大丈夫のようだ。でも部活前であまり時間はないはずだから手短に済まさないとな。

「うん。その……部屋を使わせてくれてありがとう」

 俺はまず、昨日思っていたこと……俺が西蓮寺家にお泊まりする際、麻里姉ぇの部屋を使わせてくれたことへのお礼を言った。

 今日もドゥー・ボヌールに行くのだからそこで言えばいいとも思ったのだけど、聞きたいことがあって電話をかけたタイミングで言うことにした。早いほうがいいだろうし。

『ふふ、真人が気にすることはないわよ。それから真人が実家へ泊まりにきた時は毎回私の部屋を使っても構わないわよ』

「えっ!? 毎回って……いいの?」

『もちろんよ。私の私物はほとんどないとはいえ、真人は私の部屋を無遠慮に物色したりしないのはわかってるから、私も安心して部屋を貸せるわ』

「義理の姉さんの信頼がすごい。……ありがとう麻里姉ぇ」

 妹の彼氏とはいえ、普通人に……ましてや異性に部屋を貸すのはかなり抵抗があるはずなのに……麻里姉ぇからはそんな感じは一切ない。……本気で俺を信用してくれているんだな。

『可愛い義弟おとうとのためだもの。それで、用件はそれだけかしら?』

 おっとそうだ。早くもうひとつの用件も済ませないと、部活が始まってしまうかもしれない。

「ごめんもうひとつ。えっと……部活って何時に終わるのかを聞きたくて」

『部活が終わる時間? 十一時半くらいだけど……あぁ、なるほどね』

 どうやら俺がなぜ部活の終了時刻を聞いてきたのかを理解した麻里姉ぇは、ふふっと笑った。

「うん。今日は綾奈の誕生日だから、約束したってのもあるんだけど、できるだけ綾奈のそばにいたいんだ。だから綾奈には内緒で校門で待ってようかなって」

 綾奈が俺から離れたくないと思ってくれているのと同じく、俺も綾奈のそばにいたいから……離れている時間を少しでも無くすために、俺が綾奈を学校まで迎えに行こうと考えていた。

 前回同様、サプライズになってしまうし、おそらく綾奈は申し訳なく思ってしまうかもだけど、誕生日だしこんなサプライズもご愛嬌ということで勘弁してもらおう。

『部活が終わったら綾奈に早く校門に行くよう伝えても大丈夫かしら?』

「うん。そこは麻里姉ぇにお任せするよ」

『わかったわ。それじゃあそろそろ部活の時間だから……』

 もうそんな時間か。俺の方ももうすぐ西蓮寺家に到着するな。

「うん。ごめんね時間ないのに」

『気にしなくていいわよ。またあとでお店で会いましょ』

「わかった。部活……の指導、頑張ってね」

『部活』だけだと、まるで麻里姉ぇが部活に勤しむみたいに聞こえるかなと思ってしまい、『指導』という単語を付け足した。

『ありがとう真人。綾奈のこと、しっかり祝ってあげてね』

「任せといて。じゃあね麻里姉ぇ」

 そうして俺は電話を切り、西蓮寺家への玄関を開けて中に入った。

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