第391話 誤解する部員たち
私とちぃちゃんが高崎高校の部活棟四階にある音楽室に入ると、既に半分くらいの部員が集まっていた。
「あ、西蓮寺さん、宮原さん。おはよう」
「おはようございます先輩」
近くにいた、私より少し髪の長い先輩に挨拶されたので、私たちも挨拶を返した。
どうやらまだ合唱部顧問のお姉ちゃんは来ていないみたいで、みんなは仲のいいグループに分かれて談笑をしていた。
私たちもさっきの先輩のグループの輪に入って談笑に参加した。
「そういえば、今日って綾奈ちゃんの誕生日だよね?」
最初に挨拶をしてくれた先輩とは別の先輩が私の誕生日の話題を出してきた。覚えててくれて嬉しいなぁ。
「はい」
「やっぱり! おめでとう綾奈ちゃん」
他の先輩や同学年の人からも「おめでとう」と言ってもらったので、私はみんなにお礼を言った。
そして、そこからは流れ的に真人との話になるわけで……。
「じゃあじゃあ、このあとは彼氏とデートなんだ」
「そうなんです! もうすごく楽しみなんです」
部活をしっかり頑張って、真人と一緒に猫カフェに行くのが昨日よりさらに楽しみになっているもん。待ち遠しいよぉ。
「というか早く彼氏に会いたいんじゃない?」
「それはもちろんだよ!」
「いやいや綾奈。真人は昨日からあんたの家に泊まっていて、さっきも電車に乗る直前まで一緒だったじゃん」
「「えっ!?」」
ちぃちゃんの一言を、みんなが聞き逃すはずもなく、みんなの目の色が変わったように感じた私は、ちょっとだけ身震いしてしまった。
「ちょっと待って綾奈ちゃん! 私それ聞いてないんだけど!?」
「い、言ってないから……」
それはちぃちゃんにも言ってなかったから、真人が私の家から出てきたときはちぃちゃんもびっくりしていた。
「親公認で婚約もしてるって聞いてたけど、普通にお泊まりする関係なの?」
「そ、そうですね。冬休み中は彼の家に泊まってましたし」
「「冬休みも!?」」
ちぃちゃん以外のみんながさらに驚いていた。あ……これも言ってなかったっけ。
「冬休みは彼氏の家に泊まってて、そして昨日も綾奈ちゃんの家で二人でいたということは……」
「あ、あの……先輩?」
「これは……誤解しちゃってるね」
他のみんなを見ると、うんうんと頷いてる人もいれば、私を温かい目で見てくる人、中には明らかに別の意味で「おめでとう」と言ってくる人までいる。
そして数少ない男子部員を見ると、驚いていたりショックをうけていたりと、女子だけでなく男子にまで誤解が広がっていた。
「ど、どうしようちぃちゃん……」
「ま、誤解を解くしかないね」
「だ、だよね。あの、みんな───」
「みんなおはよう。部活を始めるから所定の位置について」
私が誤解を解こうとしたら、それと同時にスーツ姿のお姉ちゃんが音楽室に入ってきた。
ど、どうしよう……これじゃあみんな誤解したままになっちゃう……。
「麻里奈先生。聞いてくださいよ」
「あら、どうしたの?」
最初に挨拶してくれた先輩がお姉ちゃんを呼び止めた。まさか、さっきの話をお姉ちゃんにもする気じゃあ……!?
「先生の妹が、大人の階段を上ったみたいですよ」
「? 今日が誕生日だものね。おめでとう綾奈」
「へっ!? う、うん。ありがとうお姉ちゃん」
私とお姉ちゃんが姉妹ということは、ここ以外では公表していないので、合唱部員以外の生徒はほとんど知らない。
お姉ちゃんの反応が薄かったからか、先輩はガクッと少しコケかけるリアクションをして、何人かの生徒も同じようなリアクションをした。
「……どういう経緯でそんなことを思ったのかは知らないけど、綾奈はあなたたちが思っているようなことは決してしてないわよ。綾奈も真人も、すごく真面目だもの」
「あ……」
お姉ちゃん、私たちのことを信じてくれてる……。
お父さんとの約束していて、私たちがそれを破る行為はしていないっていうのもそうだし、多分だけど、お姉ちゃんは真人が私に無理やりにそういうことをしない人だって理解してるから……義理の弟になる真人を信頼しきっているから、私が何も言わなくても、みんなの誤解だと言ってくれる。
ただ怒っているのか、みんなを少しだけ睨むような目をしてるから、先輩も他のみんなも、お姉ちゃんの迫力に言葉が出ないでいた。お姉ちゃん……怒ると怖いからなぁ……。
「はい。おしゃべりはそこまでにして、部活を始めるわよ。西蓮寺さんも、このあと彼氏とデートだとしても、シャキッとして声を出しなさい」
「は、はい!」
お姉ちゃんがパンパンと手を叩いてみんなに号令を出した。
私を苗字で呼び、真人のことも「彼氏」と呼んだということは、先生モードになったということ……ここからは本当に部活に集中しないとね。でないと居残り練習とか普通にやりそうだし……。
真人のためにも、ちゃんと時間通りに終わらせるため、頑張るよ!
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