第382話 交際三ヶ月記念のラブラブ電話

 時は少しだけ遡り、俺が翔太さんにガトーショコラ作りを教わり始めた翌日の月曜日……一月十六日の夜。

 風呂に入った俺はローテーブルに置いていたスマホを手に取り、ベッドに腰かけて電話をかけた。

 相手はもちろん、最愛のお嫁さんである綾奈だ。

『もしもし』

 数コールで出た綾奈の声は弾んでいた。

「もしもし綾奈。今、大丈夫?」

『大丈夫だよ。えへへ、真人からの電話、嬉しいな~』

「そう言ってくれると俺も嬉しいよ」

 今日、綾奈は放課後、部活があったから朝の登校の時しか会っていない。だから声を聞くのは今朝ぶりなんだけど、そんな嬉しいことを言ってくれると会いたくなる。夜も遅いし外はクソ寒いから無理なんだけどさ。

 でも、どうしても今日は伝えたいことが二つあったんだ。

「ねえ綾奈。今日ってなんの日かわかる?」

「もちろんだよ真人。今日は、真人とお付き合いを始めて三ヶ月の記念日……でしょ?」

「正解。さすが綾奈」

「えへへ~♡」

 綾奈と付き合いだしたのが高崎高校文化祭の二日目があった、十月の第三日曜日……つまり十月十六日。今日はその日からちょうど三ヶ月の記念日だ。

 朝の登校時に言おうか迷ったんだけど、言ってしまうと絶対にイチャイチャしたくなる自信があったから……そうなると一緒にいた千佳さんが呆れてしまうし、綾奈を離したくなくなりそうだったからあえて言わないでおいた。

 健太郎と千佳さんも、今日で付き合い始めて三ヶ月だが、俺たちみたいに電話でもしてるのかな?

 っと、今は二人のことは置いといて、記念日なんだから、今は愛するお嫁さんのことだけを考えないと。

「なんか、長いようであっという間だったよね」

「うん。最初は真人とお付き合い出来て、本当は夢なんじゃって思ってた」

「それは俺も同じだよ」

 高崎高校の文化祭で、お互いの想いを伝えあってお付き合いをスタートさせた俺たち。

 だけど、『こんなに都合よく綾奈さんと付き合えるとか、本当は夢なんじゃないか……いや、それ以前に綾奈さんが俺にボディーガードを頼んだこと自体が夢で、翌朝目覚めたら何もなかったことになっていて、ただの元クラスメイトに戻っていたらどうしよう』……なんてこともじつは考えたりしていた。

「それが、お付き合いできただけじゃなくて、真人と将来本当に結婚もできるなんて……」

 付き合って二ヶ月ちょっとで婚約までする超スピード展開……大人の人ならあるかもだけど、高校一年で本当にそんな約束をするなんてほとんど無いに等しいだろうな。

「俺は中学三年から綾奈しかいないって思っていたからね。じつは去年のゴールデンウィーク明け、一哉に新しい恋でも探したらどうだって言われたことがあったんだけど、綾奈への想いを捨てきれなかったからこそ、俺はこうして綾奈と付き合えたから、今はこの選択をして心底安堵してるよ」

 もしもあの時、一哉の言葉に頷いて、綾奈への想いを断ち切っていたら、俺は他の誰かと……いや、よそう。そんなもしもの話より、今が大事なんだから。

「山根君、そんなこと言ってたの!? うぅ~、真人が私を想い続けてくれて良かったよぉ……」

「本当にね。危うくあいつの口車にのせられて、この最高の幸せを自ら投げ捨ててたかもしれないからね」

 まぁ、あいつなりに俺を心配してくれたのはわかってるから、全然怒っても気にしてもないんだけどね。

「ねぇ綾奈」

「なぁに真人?」

「今日で三ヶ月だけどさ、これから先、半年、一年、その先もずっと、こういう記念日はお祝いしていこうよ」

 お祝いなんて言ったけど、特に何かを贈ろうとは考えていない。ただ綾奈と一緒にいて、「今日で半年だねー」みたいな感じで、いつもの二人の時間にそんな言葉でささやかに記念日を祝えたらいいと思っている。

「うん。私も大賛成だよ」

「付き合った記念日や、将来は結婚記念日も、ずっと祝っていこう」

「うん! 私たちがおじいちゃんとおばあちゃんになっても、ずっと」

「もちろん。だからこれからもよろしくね綾奈。……愛してる」

「こちらこそ。これからもよろしくね真人。……私も、愛してるよ」

 そうして愛を伝えあった俺たちは、心の中の幸せがいっぱいになり、どちらともなく笑いあった。

 そうだ。もう一つ伝えなきゃいけないことがあったんだ。これも大事なことだからちゃんと言わないと。

「それから、猫カフェの抽選の結果なんだけど……」

「う、うん……」

 綾奈は緊張した声音になったな。

 誕生日に猫カフェに行けるかどうかがかかってるからな。

「なんと、当選しました!」

 今日、その猫カフェからメールが来て、昼休みにそれを開けたら『当選しました』とでかでかと書かれていたから、一哉たちがいたのに普通に「よっしゃー!」って叫んでしまって注目を浴びてしまった。

「え? え!? 本当に!?」

「本当だよ。あとでスクショを送ろうか?」

「大丈夫。ありがとう真人……本当にありがとう!」

「きっと綾奈の祈りが届いたんだよ」

 それからも時間を忘れて綾奈と楽しくおしゃべりをしていた。


「もう遅い時間だけど、寝ちゃう?」

「……もうちょっと真人とお話したい。それから顔も見たい」

「わかった。じゃあビデオ通話にして、もう少しお話しよっか」

「うん!」

 それからはビデオ通話に切り替え、スマホの画面に愛するパートナーの顔が映ると、またもどちらともなく笑いあい、そしてしばらく会話を楽しんだ。

 綾奈、これからも俺は綾奈の隣にいるよ。ずっと……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る