第381話 ケーキ作りの特訓へ……
午後六時半。俺はドゥー・ボヌールの店前までやってきた。
昨日、綾奈のバースデーケーキを頼むだけだったはずが、まさか俺が作ることになるとは思ってもみなかった。
綾奈に喜んでもらいたいし、料理を少し真剣にやってみようと思っていたから、翔太さんの提案は驚いたけどありがたかった。しかし……。
「いきなりケーキ作りとか、ハードル高すぎじゃないか?」
さすがに今の俺には難易度が高いと思うけど、せっかく教えてもらえるんだ。頑張るとするか。
「とりあえず、指輪は外しておくか」
綾奈からもらった大切な指輪……あまり外したくはないが、調理の場につけていたら衛生面に引っかかると思うし、何より大切な指輪が汚れるかもしれないからな。同じく綾奈からもらったペンダントに引っかけておこう。
入店し、辺りを見渡すと、お客さんはほとんどいなかった。やはり夕飯時だからかな?
夕飯といえば、今朝俺の家族には今日からのことは伝えてあるので、俺は帰ってから一人で食べることとなる。
まとめて洗い物が出来ないと言われそうだったので、食器の洗浄も俺がやるように申し出た。
「いらっしゃいま……真人君、いらっしゃい」
「こんばんは」
今回出迎えてくれたのは、二十代前半くらいの女性のスタッフさんだ。長いダークブラウンの髪をお団子にしている美人なおねえさん……名前は
ここのスタッフさんとは全員顔なじみになった。
まぁ、麻里姉ぇの妹の婚約者で、ちょっと前にこの店で号泣したもんな。いろんな意味で顔を覚えられて当然だ。
「店長を呼んでくるから少し待っててね」
「はい」
星原さんは翔太さんを呼びに厨房まで掛けて行った。
「やぁ真人君。来たね」
「こんばんは翔太さん。よろしくお願いします」
「うん。じゃあ早速厨房に行こうか」
「は、はい!」
俺は翔太さんのあとに続いて厨房に入った。
そうだ。翔太さんに言わなければならないことがあったんだ。
「あの、翔太さん」
「なんだい?」
「俺、綾奈の誕生日前日から、綾奈の家にお泊まりに行くんですけど、前日に作った場合って、味や鮮度は大丈夫なんでしょうか?」
金曜日から西蓮寺家にお泊まりするので、サプライズをする都合上、本番のケーキを作るとしたら前日の金曜日になる。
当日の午前中に作って……となると、綾奈に怪しまれるし、そもそも俺の誕生日に綾奈がやっているので、それをすると綾奈に勘づかれる可能性が非常に高い。
となると、やはり金曜日に作ってから西蓮寺家に向かうのがベストなんだけど、ケーキって足が早いから半日以上冷蔵保存するのは、食べるのはもちろん問題ないが、味が落ちてしまうのでは? と思って質問したんだけど……。
「なるほどね。ならガトーショコラを作るのはどうだろう?」
「ガトーショコラ……ですか?」
「うん。ガトーショコラは油分が多いから、賞味期限も四、五日と長いし、作りたてより時間が経った方が生地が馴染むからより美味しくなる。どうだろう?」
ガトーショコラか……。バースデーケーキっていったら、生クリームを使ったケーキを想像してたから、それ以外の発想はなかった。
「ぜひそれでお願いします!」
翔太さんの提案を否定する要素はない。むしろ、これしかないと思ったほどだ。
「わかった。じゃあ、手を洗ったら早速始めようか」
「お願いします!」
こうして俺は翔太さんからガトーショコラの作り方を教わり、この日は八時半くらいまで練習した。
その日の帰宅後、夕飯を食べ、洗い物からの入浴を済ませベッドに腰掛け一息ついた俺は、明奈さんに電話をかけ、綾奈にサプライズでケーキを作ることと、金曜日に家に行く時間は遅くなること、そして綾奈には黙っていてほしい旨を伝えると、明奈さんは上機嫌で了承してくれた。
自分の娘のためにここまでしてくれるのがとても嬉しいと言ってくれて、翔太さんのアイデアだと伝えてもそれは変わらなかった。
それから時間はあっという間に過ぎ、金曜日に本番のケーキを作った俺は、一度家に戻り、お泊まりに必要な荷物を持って綾奈の家に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます