第380話 綾奈は真人ファースト
「ねぇアヤちゃん……大丈夫?」
「……大丈夫じゃないです」
私は杏子さんの問いに、顔を両手で隠したまま首をふるふると横に振り、くぐもった声で答えた。
なぜ私がこんなふうになっているのか……それは茜さんが持ってきたアルバムが原因だ。
だって、だって…………。
「真人がかわいすぎて無理です……」
どの真人もすっごくかわいいんだもん! こんな旦那様を見せられて平常心なんて保っていられないよぉ。
私は両手を顔から離し、再び開かれているアルバムを見る。
さっきも見た、夏にカブトムシを捕まえてご満悦の真人が写っている。
「かわいいよぉ……」
さっきから同じ感想ばかり言ってるけど、本当に真人がかわいいんだもん。心の中で思っていることが、抑えきれずに口から出てしまう。
私はさっきから顔が熱く、心臓の鼓動が早くなっているのを感じながらゆっくりと次のページをめくる。
すると、そこに写っていたのは、杏子さんが手の中に隠し持っていたセミをいきなり真人に向けて放るように手を開いている写真。セミが真人めがけて飛んでいて、真人がすごくびっくりしている。
その隣の写真は、セミが自分に向かって飛んできて、びっくりしすぎて泣いてしまった真人と、そんな真人を見てケラケラ笑っている杏子さんと茜さんが写っていた。
「杏子さん! 真人が泣くほどのイタズラをしたらダメじゃないですか!」
そんな写真を見て、私は自然と杏子さんを注意していた。
「いやー、この頃のマサって、ほんとすぐ泣いてたもんね」
「うん。当時近くの家で飼われていた犬が真人に向かって吠えただけで泣いてたよね」
「あったあった! 懐かしいね!」
「お二人とも真人が泣くほどからかったりしないでくださいね」
うぅ~、もし私がこの時の真人と友達だったら、絶対真人を守っていたのに……そうなると、私が真人のボディーガードに!? ……いいかもしれない。えへへ~。
「……ねぇあかねっち。アヤちゃんって本当に私の大ファンなの? なんかフツーに怒られたんだけど」
「綾奈ちゃんは真人ファーストだからね。相手がキョーちゃんでも関係ないんだよ」
「マジで愛されてるねマサって」
茜さんと杏子さんが私について話をしているみたいだけど、私は気にせずにアルバムをめくる。
「かわいい! けど、むぅ……」
ここに写っている真人は満面の笑みでとてもかわいい。
だけど、真人の両横には茜さんと杏子さんがピタッとくっついていて、さらに真人の膝の上には、幼稚園児くらいの美奈ちゃんが乗っていて、とても仲睦まじい四人が写っていたんだけど、二人ともちょっとくっつきすぎじゃない!?
「この時って何してたっけ?」
「確か……私とキョーちゃん、どっちが真人と結婚する? みたいな話題になって───」
「えっ!?」
「真人が『二人とも好き』って言って───」
「ま、真人!?」
「で、そこに美奈ちゃんが乱入して撮った写真じゃなかったっけ?」
「ま、真人は私のだから、絶対にあげないもん!」
言ったあとに私はハッとなった。
これは十年くらい前のやり取りなのに……『大きくなったらママと結婚する』みたいなやり取りなのに、真人が取られるかもと思ってつい叫んでしまった。
「……アヤちゃんって、頭いいって聞いてるけどマサが絡むとポンコツになるよね」
「綾奈ちゃんは真人ファーストだからね」
「そ、そうだけど……あぅ~」
私はそのあと二人に謝り、アルバムのページをめくって、やっぱり「かわいい」と言い続けるのだった。
「私たちも写ってるんだけどな~、マサばっかりかわいいって言ってさー」
「綾奈ちゃんは真人ファー───」
「あかねっちそれはもういいから」
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