第379話 あまり写真を撮ってこなかった二人

 私と杏子さんは茜さんの部屋に入った。

「へ~、綺麗に片付いてるね」

 杏子さんの言う通り、茜さんの部屋は綺麗だった。というか白い。

 壁はシンプルな白色で、フローリングも白……ではないけど、白に近いライトブラウンになっていて、見た通り明るくなっている。

「キョーちゃんと綾奈ちゃんが来るから、昨日帰ってから片付けしたんだよ」

 ということは、普段はもう少し散らかっているのかな? 綺麗だからイメージ出来ない。

 部屋の隅の物置みたいな扉の奥に色々入れてたりして……。

「綾奈ちゃん、そこは開けちゃダメだよ。開けたら中の物が出てくるかもしれないからね!?」

「う、うん……」

 どうやら当たっていたみたいだ。お友達の部屋の扉を勝手に開けたりはしないよ。

 でも、そうなると……。

「真人の部屋の方が綺麗、かも……?」

 ふと、頭の中で真人の部屋と普段の茜さんの部屋(イメージ)を比べてしまい、真人の部屋の方がきちんと整頓されているなぁって思った。

「え!? 真人の部屋って綺麗なの!? カズくんが中学の頃行ったらめっちゃ散らかっていたって聞いたけど!」

「うん。初めて行ったのは真人が熱を出した時なんだけど、その時も綺麗だったよ」

 山根君は中学までの真人の部屋しか知らないのかな? それとも茜さんが山根君に聞いたのがすごく前だったとか?

 逆に私は付き合いだしてからの部屋しか知らないから、どんな風に散らかっていたのか想像出来ない。……今度美奈ちゃんに聞いてみようかな?

「しまった。転校初日、マサの部屋行くの忘れてたや。良子叔母さんとすっかり話し込んじゃったからなぁ……。今度突然行こう」

 確かにあの日、杏子さんは真人の部屋どころか二階にすら上がってこなかった。良子さんと話が盛り上がったのは本当みたいだ。

 おかげで私は真人と二人きりの時間を過ごせたんだけどね。

「ぐぬぬ……真人、痩せて生活態度を変えただけじゃなく、部屋まで綺麗にしてるとは……これは女子としては負けてられない! 私も真面目に部屋を片付けよう!」

「あ、かずっちとの写真がある!」

 茜さんがそんな決意をしているのをよそに、杏子さんは部屋を見渡して、勉強机のそばの壁にかけられたコルクボードに貼られていた写真を見ていた。

 私もその写真たちを見るため移動した。

 コルクボードには何枚もの写真が飾られていて、ほぼ全てが山根君とのツーショット写真だ。中には茜さんが山根君の頬にキスをしている写真もある。

「いいなぁ……」

 その写真を見て、私の口から自然とそんな言葉が出てきた。

「アヤちゃんはいつもしてるんじゃないの?」

「はい……って、そうじゃなくってですね!?」

 真人と二人っきりになったときは必ずといっていいほどキスはしている。頬はもちろん唇にも。

 杏子さんの言葉に少しだけ頬が熱くなっちゃったけど、私が言ったのはそういうことではないよ。

「思えば私と真人って、写真をあまり撮ってこなかったなって思って……」

 写真を撮ったといえば、風見高校の文化祭で雛さんに撮ってもらったのと、先日の真人の誕生日にドゥー・ボヌールで撮ってもらったものくらいだ。

 写真を撮る機会はすごくあったのに、デートに……真人の隣にいられるのが幸せで、つい頭からそのことが抜け落ちていた。

「あまり真人と写真撮ってないなって……」

「あーね」

「なら、今度の綾奈ちゃんの誕生日から、いっぱい写真を撮って思い出に残そうよ」

「茜さん……」

「今までの真人との思い出はちゃんと綾奈ちゃんの心の中に残ってる。写真に収められてないのは残念だけど、それはこれからどんどん増やしていくしかないよ。だから手始めに、綾奈ちゃんの誕生日のデートで、真人との写真を撮りまくったらいいよ」

「……うん。私の誕生日は、部活以外はずっと一緒にいられるから、常にスマホを持ってシャッターチャンスを逃さないようにするね!」

「そっちにばかり気を取られて、真人を放ったらかしにしたらダメだよ?」

「うん。気をつけるね」

 お母さんやお父さん、ドゥー・ボヌールではお義兄さんや拓斗さんに時間があったら写真を撮ってもらうよう頼んでみようかな。

 誕生日当日がさらに楽しみになっちゃったな。

「じゃあ私はアルバムを取ってくるから、二人はテキトーにくつろいでてよ」

 茜さんはそう言って、一度部屋から出ていった。

 いよいよ小さい頃の真人の写真が見れるんだ。すごくワクワク、そしてドキドキしてきちゃった。

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