第378話 綾奈は茜の家へ
日曜日の昼下がり、私は杏子さんと一緒に電車に乗り、茜さんの自宅へとやって来た。
その目的は、初詣のときに約束した、真人の小さい頃の写真を見せてもらうためだ。
じつは昨日の夜、茜さんから電話がかかってきて、『明日、キョーちゃんがうちに遊びに来るんだけど、綾奈ちゃんも来る?』と言ってくれたので、私は二つ返事で了承した。
茜さんの家に行くのも楽しみだし、杏子ちゃんと二日連続で一緒にいられるのもすごく嬉しかった。
で、でも、私が本当に一緒にいたいと思ってるのは真人だから! 嘘じゃないよ!
その真人は、今日は予定があるって言ってたから……。今頃何してるのかな?
隣の杏子さんは、黒いハンチング帽に紫の髪を隠し、サングラスもかけて変装していた。有名人だもんね。
茜さんの家のインターホンを鳴らすと、しばらくして玄関が開き、中から茜さんが出てきた。
「二人ともいらっしゃい。遠いところをありがとね」
「いいんだよあかねっち。私らの仲じゃん!」
「お招きいただいてありがとう。茜さん」
茜さんの家に行ってみたいと思っていたし、真人の写真を見せてくれる約束も覚えてくれていて、移動なんて全然苦にならなかった。
「寒いでしょ? さ、早く中に入って」
「お邪魔します」
「おっじゃましまーす」
茜さんの家に入り、来客用のスリッパに履き替えて廊下を歩き出したそのとき、廊下とリビングを繋ぐ横開きの扉が開かれて、茜さんのお母さんと思しき人が出てきた。
「いらっしゃい。久しぶりね杏子ちゃん」
「
空さんと呼ばれたその人は、外見が茜さんを大人にしたような容姿で、私よりも少しだけ短い髪をした綺麗な人だった。
「それから、こっちの子が……」
「そ。真人のお嫁さんの綾奈ちゃんだよ母さん」
茜さんは空さんに私を紹介した。
そっか。小さい頃は近くに住んでいて、三人で遊んでいたから、空さんも真人を知ってるんだ。
美奈ちゃんはまだ幼稚園児だったから、三人とは遊べなかったのかな?
って、そうだ。空さんにちゃんと自己紹介しないと。
「さ、西蓮寺綾奈です。茜さんの友人で、真人の恋人でつ、妻です。よろしくお願いします」
妻のところでちょっとどもってしまった。うう……大事なところだったのに……。
「茜から聞いていたけど、すっごく可愛い子ね。真人君も隅に置けないわね」
空さんは微笑ましいものを見るような目で私を見てくる。そんな風に見られると照れてしまう。
「私たちがいるのに平気でイチャついて砂糖を振りまいてるよ」
「あらそうなの? でも、これだけ可愛くていい子なら、そうなっちゃうのも仕方ないわね。それにしても、あの泣き虫だった真人君が、今じゃこんな美少女の綾奈ちゃんの王子様だなんて……きっとすごい好青年に成長したのね」
「王子様……えへへ♡」
『王子様』というワードが頭の中でリピートされ、私は自然と真人の顔を思い浮かべた。
その結果。頬が熱くなり、自然と顔が緩んでしまって、私は両手を頬に当てていた。まさと、かっこいいよぉ……。
「これは間違いなく真人のことを考えてるね」
「あらあら。可愛いわ綾奈ちゃん」
「ほら綾奈ちゃん。真人の写真を見たいんでしょ? 早く私の部屋に行くよ」
「はっ! そ、そうだった。茜さん、お願いします」
茜さんに声をかけられたことで我に返って、本来の目的を思い出した。危うくイメージした真人だけで満足してしまうとこだった。
「あとで飲み物を持っていくわ。二人ともゆっくりしていってね」
「はい」
「は~い」
私と杏子さんは、茜さんについて行く形で階段を上り、茜さんの部屋へと向かった。
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